Warren Weaver, Science and complexity, 1948
表題の記念碑的論文が、PDFでネット上からDL可能であることを知りましたので、知の共有化の一環として、弊blogにてもannounceいたします。
1)学会誌サイト
Science and complexity – Emergence: Complexity and Organization
※こちらの、記事本文の最下段の、here から。
2)本論文は、public domain ということなので、弊blogからもDL可能としました。
ダウンロード - 194820science20and20complexity2028weaver29.pdf
■Weaverと塩沢由典
私が、本論文を知ったのは、塩沢由典著『複雑さの帰結』(1997年)NTT出版、pp.6-7、においてです。複雑系科学からの本論文への立ち入ったコメントとしては、日本で最初のものだと思います。
私がそうした複雑さにどうして注目するようになったかですか。たまたま『数学セミナー』に「経済学はどんな数学を必要とするか」という一文を寄稿したことか縁なのです。そのおなじ号に隣り合って政治学の猪口孝氏が「政治学からのラブコール」という文章を書いていて、ワレン・ウィーヴァーの「科学と複雑さ」という論文を紹介していた。猪口さんはハイエクからこの論文を知ったのでしよう。ハイエクがその論文を種に「複雑現象の理論」という論文を書いている。私もハイエクのその論文は読んでいたにもかわらず、ワレン・ウィーヴァーの存在と意義にまったく気づかなかった。それであわててワレン・ウィーヴァーの論文にあたったわけです。それは一九四ハ年に雑誌『アメリカン・サイエンティスト』に載ったもので、それを読んでみて大変な先見の明のある人だと感心しました。
ウィーヴァーはその論文にこう書いていたわけです。一九世紀までの学問は~主に自然科学ですが~、単純な体系を扱ってきた。一九世紀の末になると統計力学が出てきて、彼の言葉で言うと非組織的な複雑さを科学が扱うようになる。統計力学は気体を分子が相互干渉なく飛び交っていて、ぶつかったら跳ね返って飛んでいく集団と捉えた。衝突だけが問題ですが、統計力学はそれを確率論の言葉で独立の過程と捉えた。統計学が非常にうまく使える体系の時代が二〇世紀の半ばぐらいまでの学問だったというわけです。しかし、彼はその先を考えていて、多数の粒子なり主体なりがもう少し複雑に干渉し合っている体系があるんじやないか、自然科学はまだまったくといっていいほど手をつけていないけれども、二〇世紀の後半にはそういう学問を発展させなければならない。こう書いている。ウィーヴァーは情報理論のシャノンと共同研究をやったひとで、情報科学に関わっていたことがそういう考えを生んだのだろうと思いますが、いずれにせよ私の求めていた概念はまさしくこれだったんだなと思ったわけです。
塩沢由典著『複雑さの帰結』(1997年)NTT出版、pp.6-7
■From Weaver to Hayek
この Weaver 論文への社会科学からの最初期の応答は Hayek でした。上記の塩沢の本論文へのコメントで、Hayek の The Theory of Complex Phenomena(1964) を読んでいたのに Weaver に気づかなかった、と発言しているのも、実は無理はありません。HayekからのWeaver 論文へのコメントとしては、下記のほうがより核心をついたコメントになっているからです。
A. Hayek, Degrees of Explanation (1955)の脚注
See, Studies of Philosophy, Politics and Economics, 1967, London, Routledge & Kegan Paul, pp.3-4 f.n.1
1 Modern physics has of course resorted to statistics to deal with systems of very large numbers of variables, but this does not appear to me to be in conflict with the observation in the text. The statistical technique is in effect a manner of reducing the number of separate entities, connected by laws which have to be stated, to comparatively few (namely the statistical collectives) and not a technique for dealing with the interplay of a large number of such significantly independent variables as the individuals in a social order. The problems of complexity to which the further discussion refers are of the kind which Warren Weaver has described as 'problems of organized complexity' as distinguished from those 'problems of disorganized complexity' with which we can deal by statistical techniques. Cf. Warren Weaver, 'Science and Complexity', American Scientist, 1948, and now the fuller version of his views in 'A Quarter Century in the Natural Sciences'. The Rockefeller Foundation Annual Report, 195 8, pp. 1-15.
■ 覚書結語
以上、ご紹介と気付いた2点ばかり。私自身のコメントは、後日に期します。
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