AI & Quantum Computer vs. Children?
先週、米Googleが、量子コンピュータの実用実験に成功した、とのニュースがネットの世界を駆け巡りました。すわ、シンギュラリティ(singularity)到来か、と早合点した方もいらっしゃるかも知れません。
何しろ、スパコンが1万年かかる計算を3分で解いた、のですから。それは凄いことではあります。巡回セールスマン問題や、RSA暗号解読(素数を利用したネット上の暗号)なども、チャッチャと解けてしまう可能性が出てきたことを意味するのでしょう。
※スパコンで1万年分の計算、3分で Google「量子超越」 :日本経済新聞
すると昨今話題の、AI(Artificial Intelligence)に「負けて」しまう子どもたちの行く末はどうなるのでしょうか。
《AI vs. こども》の問題を提起された数学者新井紀子氏は、AIのパワーがひとを上回ることを懸念しては、実はいません。「シンギュラリティは来ない」し、「AIはひとを上回れない」とそのご著書で断言しています。新井氏の懸念は、むしろ「大したことはないAIより劣る」いまの子どもたちの読解力、の実態に危機感を抱かれています。この点につきましては、別記事で新井氏の二著の書評を当blogにポストする予定ですので、その際に詳論します。
※【2019年ビジネス書大賞 大賞】AI vs. 教科書が読めない子どもたち
※AIに負けない子どもを育てる
ここでは、むしろ量子コンピュータやAIに関する別の問題点を指摘しておきます。それは、それらの電気代です。
◆スパコンの電気代
スパコン「京」のメーカー富士通のサイトにスパコンのQ&Aがありました。
「スーパーコンピュータ「京」の消費電力はどれくらいですか? : 富士通 」
そちらによりますと、「京」の消費電力は約3万世帯分に相当するそうです。ただし、それでも「電力あたりの性能は世界のスーパーコンピュータの中でもトップクラス」とのこと。
だとすれば、電力で運転される、計算マシンとしての量子コンピュータ( Quantum Computer)は、そもそも演算を安定して制御するのが技術的にかなり難しく、ましてや研究用のプロトタイプでは、技術的に成熟したマシンであるスパコンに比べれば、単位当たりの電力消費量はかなりかかっているだろうと思われます。技術的に安定するまで少なくとも20年ほどはかかるらしいので、その開発途上でも電力はかなり消費せざるを得ません。
◆AIの電気代
AIはAIで、かなり電力を食います。MIT Technology Reviewのサイトの、
「世界の消費電力量の10%がAIになる日」はやってくるか?」によれば、
「材料やチップの製造、設計に大きなイノベーションがなければ、2025年までにはデータセンターの人工知能(AI)ワークロードが世界の電力使用量の10分の1を占めるようになる可能性がある」と懸念している専門家もいます。
◆after Peak Oil のリードタイム
世界最大の超巨大油田である、サウジのガワール(Ghawar)油田は、1950年に生産開始されてから、Peak oil は1980年に来ており、既にピークから40年経過しています。それでも日量500万バレルは維持していると市場関係者は見ていました。
しかし、サウジアラビアの国営石油会社サウジアラムコが2019年4月1日に発表した債券目論見書によれば、ガワール油田の生産能力は日量最大380万バレルと発表されていまして、生産能力が15年前にくらべ1/4減産となっています。
「サウジアラムコ、世界最大油田の「驚くほど低い」生産能力が判明 - Bloomberg」
油田の石油生産推移の標準モデルでは、生産開始からピークまでの期間の、3倍の期間が生産安定期でピークアウトし、その後急激に減産し始め、ピーク生産の半分くらいになると、ほぼ生産終了までの半分の期間経過、となります。ガワール油田は、モデルから推測すると2040までに、ピーク生産の半分となる可能性があります。
※Peak oil とはなにか: 本に溺れたい
世界最大の産油国サウジアラビアの最大油田生産能力が、ピーク時の半分をあと20年で迎えるなら、残りの油井は推して知るべしで、「after Peak Oil」どころか、私の目の黒いうちに「World without Oil」が来てしまう、ことも覚悟して備えなくてはならないでしょう。
◆「問題」の焦点
「World without Oil」では、量子コンピュータはおろか、AIにしても無尽蔵に使える保証はどこにもないのではないか、というのが私の予想です。
というのも、現在の地球における人口支持力は最大80億人程度で、それは石油を無尽蔵に使える農業を前提に想定している数値ですから、今世紀半ばぐらいまでに、この数値は急激に低下していくリスクがあるからです。
今後ますます希少化、高価格化する oil をコンピュータやネット社会を維持することに優先的に振り向けることは事実上困難でしょう。その意味では、「AI vs. こどもたち」問題は成立しないかも知れませんが、それ以上の深刻な問題に子どもたちは直面せざるを得ないのではないかと思われます。
(2)へ続く
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