岡義武『山県有朋 明治日本の象徴 』2019年岩波文庫
近時、文庫化されましたので、レビューをamazonに投稿しました。ご参照頂ければ幸甚です。
史家としての岡義武
2019年11月8日
本書は、明治政治史を鳥瞰するのに、分量、内容からみて最良のものです。このボリュームに、山縣の生涯と明治政治史を緊密に配して、間然するところがありません。かつて、三島由紀夫は「文章の不思議は、大急ぎで書かれた文章がかならずしもスピードを感じさせず、非常にスピーディな文章と見えるものが、実は苦心惨憺の末に長い時間かけて作られたものであることであります。」(『文章読本 (中公文庫)
』p.187)、と述べました。本書はその見本です。これを可能ならしめたのは、岡義武の才と研鑽でしょうが、岡の史家としての自己抑制(Weberの「行動的禁欲aktive Askese」)、方法意識の賜であるようにも思います。
従いまして、本書に「分析」を求めてはならないと思います。研究書ではなく、あくまでも史書だからです。それゆえに、日本近代史政治史を叙述した名著として生命を保持してきましたし、これからも永く読み継がれるでしょう。
評者は、山縣の死後から1945年へ向かう、明治憲法体制の崩壊と帝国陸海軍末期の無様な秩序崩壊の断末魔に関して、維新元勲のInner Circle中、少なくとも山県は有責であると思います。だから、個人的には最も嫌悪する人物ですが、本書はその中庸な筆致にも拘らず(それゆえに?)、個人的には最も敬意を払う書です。
江湖にひろくご一読を勧めます。
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