AI & Quantum Computer vs. Children? (2)
前回の記事で量子コンピュータ(Quantum Computer)のエネルギーコストを問題としました。その根拠の一つをご紹介します。
今回のグーグルの量子コンピュータは超電導回路が使われています。下記。
グーグルは量子プロセッサーに超電導回路を採用する。超電導回路は絶対零度(セ氏マイナス273.15度)に限りなく近い「15ミリケルビン(mk)」という超低温で稼働させる必要がある。そのため、量子プロセッサーは液体ヘリウムで冷却した「希釈冷凍機」に格納して運用する。
グーグルが「万能量子コンピューター」の開発に自信、強気の理由は | 日経 xTECH(クロステック)
これは医療現場で普及している、磁気共鳴断層撮影装置(MRI)と共通する技術です。現在日本国内では5000以上の医療機関に導入されています。「なら量子コンピュータでもOKでは?」と思われる方もいらっしゃるでしょう。しかし、これは医療という社会資本とも言うべき分野です。そのコストを支えているのは、健康保険であり、様々な補助金です。金持ちだけが享受できる技術であってはならない。だから社会保険や税金が投入されている訳です。計算機に社会保険を適用する愚かな国家は世界中に何処探してもいません。ただし、21世紀のテクノロジーにおいては、液体窒素を使用する「高温超電導」もあり、これは液体ヘリウム(-269℃)に対して、液体窒素(-196℃)で超電導現象を発現できるもので、ほぼ実用化段階にきています。
※超電導技術に関しては、超電導技術の将来展望 | 三菱総合研究所(MRI)を参照。
それにしては、コストにうるさいはずの私企業グーグルがなぜ今回それを採用しないかと言えば、量子コンピュータという技術が非常に不安定で制御しにくい、物質の《量子》状態を対象とするもので、ある意味繊細なテクノロジーだからです。超電導送電ケーブルであれば、運用時間の中で、極少数回、短時間のエラーがあってもそのターミナルで致命的な事故になる確率は低いでしょう。将来的には、例えば、MRIならば「治療」ではなく「検査」なので、高温超電導の送電ケーブルの端末にあってもよさそうです。
しかし、量子コンピュータが要求する技術としての安定性はそれでは実現できないから、パイロットプラントとしては、今回グーグルは、高コストの技術を使わざるを得ない、と解釈できます。
ところが、その一方で、World without oil も着々と近づいています。最悪(最速?)の場合、2040年頃からはっきりそのネガティブなダメージが人類社会を襲う可能性もあります。ハイテクの類を一切合切否定するのもどうかとは思いますが、いまの人類が達成したハイテクは、その技術の根底に、easy oil、cheap oil が大前提として存在する代物です。従いまして、World without oil と High technology は本質的に相性が悪いのは否定しようもないと私は考えます。
人類で最も「頭の良い」人々には、もう少し real な方面へその貴重な resources を使ってもらいたいと思います。もし彼らにおける《合理性》が短期で、ミクロなものに偏りがちなのであれば、彼らの意見に関しては慎重な篩にかける必要があるでしょう。長期で、マクロな方向の《よりましな合理性》は、《智慧》や《叡智》いうべきものです。そこには、人間という生き物の有せざるを得ない「情念」やある種の「反合理性」をも含んだものであるはずです。その部分が欠けてしまいがちだからこそ、いまの人類の苦境があるのですから、いわゆる「哲学」や「思想」を「勉強」すれば光明が開けるとも思えません。より多くの人が、人類文明1万年の《失敗》を寛容な眼から《教訓》としてを読み取る、という歴史的感性が大切なように思います。「寛容な眼」と言ったのは、所詮、己にも「情念」や「反合理性」が潜在するからです。迂遠にすぎるでしょうか。破局を実際に迎えないと動かないのが「ひと」なのであれば悲しいのですが。
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