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2020年1月25日 (土)

「中国の新型肺炎」雑考

 この件に関しては、下記記事が優れていますので宣伝いたします。

すでに数千人が発症か、中国の新型肺炎、疫学者らが発表 | ナショナルジオグラフィック日本版サイト

 そこで2点ばかり、上記ナショジオの記事を読みながら、つらつら考えました。

1)「不衛生な」ということでは、例えばインドの過密な下町なども中国の過密都市とそう大差ないでしょう。従いまして、中国の華中、華南地域で頻々として疫病が発生する原因は、上記のナショナルジオグラフィック日本版記事の指摘のように、その特異な、食文化が直接の原因と考えられます。

 今回の事件の舞台は、武漢「華南海鮮市場」、感染源として疑われているのは、「食用のタケネズミやアナグマ」です。食用と言ってますが、要するに野生動物です。西欧人は今でも肉食で、動物の屠殺を平気でしますが、それは人間の管理の下にある牛、豚、羊といった家畜です。

 日本でいう「医食同源」は和製四字熟語で、中国では「薬食同源」です。代表的なのが薬膳料理で、「体によい食材を日常的に食べて健康を保てば、特に薬など必要としない」というものです。件のナショジオ記事の最後の頁にある、「熊の胆」(くまのい)がその代表例です。ウサギ、タヌキ、キツネの胆嚢も出回るようです。

 この食材として、「もっと効能(薬効)のあるもの」ならカネに糸目をつけない、という需要に応じようとすれば、「野生動物」に食指が動くことになるのでしょう。日本の徳川期でさえ「熊の胆1匁と金1匁」、「熊の胆1匁と米1俵」なのですから、現代の金満中国人が、「タケネズミ」、「アナグマ」、「ハクビシン」が回春や長命によい、と聞けば飛びつきそうなことは、さもありなん、です。ことは、「来世」などというお為ごかしなど歯牙にもかけない、「現世」至上主義者の中国人のエートスの問題でもありますので、中国共産党が万が一、「野生動物」食の禁止、などの法規制を中国人にしようとすれば、それこそ「革命」が起きてしまうかも知れません。

※現代中国語では、「薬を食べる(吃藥 チーヤオ )」と言います。まさに「薬食同源」です。


2)近年の「中国脅威論」に代表されるように、なぜ西欧人は中国を過大評価しがちなのか、と言う点は一考の価値はあるかも知れません。

 これは、初期近代西欧人の近世帝政中国(明清帝国)観が、現代西欧人の中国像の原型になっていて、それが今でも尾を引いているからだと思います。

 イエズス会の清朝派遣の宣教師たちの報告書、それを真に受けた、ライプニッツや百科全書派の帝政中国礼讃。こういった言説です。

※参照
中国思想のフランス西漸 1 (東洋文庫)
中国思想のフランス西漸 2 (東洋文庫)

 17世紀危機にあった近世西欧人にとって、初期近代の大清帝国やオスマン帝国が羨望の的であったのは事実その通りだった訳で、むしろ当然です。オスマン帝国は西欧の隣人だったので、オリエンタリズム化して尊卑を一気の逆転させたのでしょうが、黄金期の近世帝政中国像のイリュージョンは、西欧の近代知識人の狭いサークルでは生き延びてきて今に至る、と言うことなのだと思います。これは、近代日本人の「近代西欧素晴らしい」イリュージョンと五十歩百歩ではありますね。「同病相哀れむべし」と言うことなのでしょうか。いささか情けない気もします。

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