百年前のパンデミック「スペイン風邪」(a pandemic one hundred years ago)
正式には、「スペインインフルエンザ」です。単なる風邪ではないので。第一次世界大戦さえ止めた、と言われるこの102年前のパンデミックを簡単に振り返っておきましょう。
1918年3月11日、米国カンザス州の米軍基地で料理番をしていた兵士、アルバート・ギッチェルは、のどの痛み、頭痛、発熱などの症状を訴えました。数時間で軍の診療室は同じ症状を訴える兵士であふれかえり、1ヵ月後には患者全員を寝かせる場所がなくなります。その間も、健康と診断された(発症していない)兵士たちはヨーロッパ戦線へ投入されていきました。
4月にはフランス戦線に感染し,4月末にはスペインに広がり,6月イギリスに伝わり,〈スペイン風邪〉と呼ばれるにいたりました。これとほぼ同時に,中国本土と日本の海軍でインフルエンザ発生が報告され,5月に中国全土に蔓延しました。
大戦終結の年にあたる1918年はヨーロッパに世界各地から兵士と労働者が集まり,インフルエンザ流行の絶好の状況のなかで,同年秋に第2波がヨーロッパを席巻し,数週間のうちに世界中の兵士と市民を襲いました。年末にかけていったん下火になりましたが、年明けに再燃し、春になっても収束の目途がたちませんでした。この頃になりますと、死者の半数を二十台から四十代の患者が占めるようになりました。肺炎の合併症が主な死因でした。第3波は1919年の冬におこり、これまで免れていた地域を襲いました。
※12年前に、「インフルエンザと Max Weber」という記事を書き、こう締めくくりました。
「我が偉大なる Max Weber が天に召されたのが、1920年。直接の原因は医者の誤診によって、肺炎を単なる風邪とされたことらしい。ただ、スペイン風邪の流行が1918年~1919年。青壮年の被害が中心で、直接の死因は肺炎だというところからみると、ひょっとして Weber の死はこれと関連があるか? 当時のMünchen にスペイン風邪のぶり返しとその小流行があったかも知れないと思ったりもする。」
Weberの死は、上掲したように、1919年冬の第3波、最後の流行に巻き込まれたのは間違いない所でしょう。享年56歳ですから、天寿を全うできたら、第二次大戦後まで狂ったように論文を書き続けていた(かも?)でしょう。そうすれば、当不当に関わらず、イスラムに関する比較宗教社会学は書き上げたでしょうから、人類の知的遺産レベルで惜しいことをしたと思わずにはいられません。(20200228追記)
強い感染力が特徴で、当時の全世界の人口の30%の6億人が感染したとされています。死者は2000万人以上で、最大で5000万人という推計もあります。地域別の死者は,アメリカで40万人以上,イギリスで20万人,インドでは500万人といわれています。日本でも2300万人が感染し、38万人以上が死亡しました。
第1次世界大戦の戦闘員および民間人の犠牲者は、3700万人と言いますから、この時のスペインインフルエンザは、世界大戦に匹敵するか、あるいは上回る死者を出したことになります。
スペインインフルエンザに比較しますと、21世紀の新型肺炎の致死率は低そうですが、感染を続けながらウィルスが変異することもありますので油断は禁物です。個人でできる、外出時のマスク着用、帰宅時の手洗い、うがい、等小まめな予防措置の励行が望まれます。
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