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2020年3月 5日 (木)

ベルグソンとプラグマティズム(Bergson and Pragmatism)

 なにか御大層な表題ですが、一つ気付いたことがあるのでその備忘録です。

 この《ベルグソンとプラグマティズム》という主題を私が知ったのは、かれこれ40年も前のことです。時はすべてを押し流すものだということをつくづく実感しますが、このことを教えられたのは故渡辺慧の著書によります。
渡辺慧『生命と自由』(新書)1980年6月岩波書店刊、p.50

 プラグマティズム読まなきゃなぁ、『創造的進化』は読んでおこう、などと胸の内でブツブツ言ったのも束の間、私という生物のエントロピーが既に max になる地点が見えてきているにも関わらず、どちらも「覗き見る」程度で「読む」までには至っていません。ずっと頭のどこかで引っかかっている状態で放置していました。

 ところが、あるきっかけから、一つの奇書を読み、俄然この話題が思い起こされました。既にすべての現代日本人から忘れられた古色蒼然とした書物です。
北昤吉『哲學行脚』大正15年5月新潮社刊
 ※この本の詳細は上記リンクの紹介記事をご覧ください。

 この本を読んで不思議に思った点があります。インタビュアーである北昤吉がベルグソンに、英語かドイツ語でインタビュー可能か、と確認すると、では英語にしましょう、と即答するのです。また、ベルグソンが北に、米国ではどこへ留学したのか、と問い、ハーバードだ、と応答すると、嬉しそうにプラグマティズムの哲学者の話題を語り出すのです。少々違和感を感じたので、まず事典類を参照しました。中事典では字数に制限があるので大事典を調べました。平凡社世界大百科事典と小学館日本大百科全書には関連する記述はないと思われました。

 最も興味ある記述があったのは、集英社世界文学大事典です。その、ベルグソンの項(中村弓子筆)に、
「フランスの哲学者。ユダヤ系ポーランド人の音楽家の父とイギリス人の母とのあいだにパリに生まれる。」
とありました。それでは、とさらに、英語版 Wikipedia「Henri Bergson」の「Biography」を見ると、かなり詳しい情報がありました。

 ベルグソンの父、ミハイルは、ポーランド系ユダヤ人、作曲家兼ピアニストでショパンの庇護者。父方の曾祖母は、著名なポーランド・ユダヤ人のパトロン/後援者で、ユダヤ教ハシディズム運動の協力者。ポーランド・ベルグソン家は、名の知られた企業家一族で、ベルグソンの曽曽祖父は、18世紀後半のポーランド王の庇護をうけた銀行家です。

 問題のベルグソンの母、キャサリン・レビソンは、イングランド・ヨークシャーの医者の娘で、イングリッシュとアイリッシュの血を引くユダヤ系。そういうこともあるのでしょう、ベルグソンの家族は、彼の幼少期ロンドンで暮らし、英語は母親直伝です。9歳になる前にフランスに定住した、とありますから、英語は彼の文字通り母語であり、ベルグソンは native English speaker と考えられます。

 要するに、ベルグソンは、英米的なものが「好き」だったのです。自分の血の半分は「英語」でできていた訳ですから。そして、彼の魂には彼が好むと好まざるとに関わらず濃厚な「ユダヤ/ユダヤ教」的なものが刻印されてしまうことは避け難いと思います。出自的なもので全て説明するのもどうか、と思いますが、その部分を無視して人間を考えること、この場合は思想史研究、は妥当性を疑われても仕方ないと思いました。

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