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2020年4月27日 (月)

コロナ禍と原油価格 COVID-19 and oil prices (2021/12/02 data up-dated)

 このブログで、コロナ禍の経済/社会への影響に関して、二つの記事を投稿しました。

コロナ禍と経済循環 plague and economic circulation(2020/03/30)
歴史実験としてのコロナ禍 Coronavirus shock as a historical experiment(2020/03/31)

 その①で、こう書きました。

「経済の循環は、goods の流れと、money/credit-debt の流れの二つがありますから、短期的に goods でこういうことが起きるなら、中長期的に money/credit-debt の次元でこういうことが起こるかも知れません。とりわけ金融関連、金融派生商品の債権債務の決済日に、defaultがどのレベルで、どれくらいの規模で起きるか、起きた時、中央政府、中央銀行がこれに打つ手があるのか。これが、コロナ騒動の経済動向を左右するの次への局面になりそうです。」

 この数週間の原油価格(oil prices)の動きを見ますと、上の事情は明らかにありそうです。

 下記のchart0をご覧いただければ一目瞭然ですが、現在のspot oil 相場は(原油先物もあまり変わりませんが)ほぼ20年前の相場に引き戻されています。比率でいうと、この20年間のピーク時(約100ドル/バレル)の1/6、ここ5年間のピーク時(約75ドル/バレル)でも1/4にまで突入してます。

※註記 以下のグラフは、どれもマウスポインタを重ねクリックすと、別ウィンドウの鮮明な画像が出ます。

chart0 この50年間の原油価格の推移

Oil_long_202110pdf 

 oil は、現代の産業社会(industrial society)の実物的基盤であり、テクノロジーの前提でもあります。エネルギー供給の根本として、そして化学加工製品の素材として、現代生活に関わるありとあらゆる製造プロセスで、直接的、間接的に投入されています。従いまして、その価格動向はあらゆる財価格の変化に影響を与えてしまいます。

 ただし、それが短期的な2,3か月の価格変動という見通しが経済システム参加者全員に共有されていれば、在庫/信用等のショックアブソーバーの働きによって、経済体系の基礎財の価格的/数量的変化であっても、その衝撃をある程度緩和してくれますので、経済体系は、日付の古いマクロ循環から新しいマクロ循環への変化はソフトランディングする可能性が大きくなります。今の原油価格の暴落で言えば、ストンと落ちたけれど、数ヶ月でとり合えずほぼ確実に下げ止まるだろうとか、半年くらいかけて、すべてではないにしても、なだらかに多少戻すだろう、とかいう見通しです。

 一方で、この変動が、半年後にどう動くか、全く見通しが立たない、あるいは、下げ止まるとは予想できない、ような場合、経済システムの参加者の行動(ミクロ循環)が、なかなか一定のルーチン行動に収斂しないため、定型的、安定的に循環するミクロ循環が形成されず、したがって、マクロ循環もむしろ参加者の見通しどおりに、不安定になる可能性が高くなります。

 今般のコロナ禍は、経済システム外からの衝撃であり、百年前の経験(スペイン・インフルのパンデミック)を有するシステム参加者は事実上、疫学の専門家を含めて皆無であり、また、経済規模もその頃の人口約20億人から約80億人へ4倍となり、そのうえ世界中を張り巡らす、中間財、仕掛品、完成品のサプライチェーンを、トヨタかんばん方式の普及で、在庫のミニマム化しながら形成、推進しているため、システムプロセス上のあらゆる junction 部分が隘路(bottle neck problems)化するリスクが高まっています。

 それは、食料、薬品といった当面すぐにも必要なものにおいても、同じようなシステム化が施されていますから、一旦、経済システムのどこかで超過需要(吸引状態)が発生しますと、経済システムの投入産出構造を通じて、思わぬ箇所に隘路が発生するかもしれません。

 いま話題にしている oil はむしろ超過供給(圧力状態)の隘路ですが、これで種々の oil 関連企業、業者が仮に破綻してしまうと、oil ビジネスは巨大な設備の設置型産業でもありますので、一旦放棄されてしまった油井や、オイルシェール業者が撤退して残った採掘現場は二度とビジネス上コストに見合うものとなりません。そうなれば、経済システム全体の活動状態が多少なりとも回復すると一気に oil のサプライチェーンのどこかが吸引状態で隘路化してしまう可能性もあります。サウジアラビアがいろいろエクスキューズをしながらも、原油供給を絞らないのは、アメリカのオイルシェール企業潰しに真の狙いがあるはずなので、それがある程度達成されるまで手綱を緩めないと予想されます。これは、サウジにも跳ね返るかなり危うい諸刃の剣である危険性を感じます。

 このコロナ禍の最大の経済、社会的問題は、感染者規模、その死者の数ではなく、誰にも「明日」が見えない、ということです。そのため、人々の個々の振舞いが乱れ、それによって社会全体、経済システム全体の振舞いも乱れてしまうので、システムにどのような破綻が起こるのか不明で、そのシステム破綻による犠牲者の種類と規模が、経済システム参加者の誰にも予想できないことです。

 過去、中南米の先住民族が近世西欧人の持ち込んだ疫病でほぼ絶滅した例を除けば、疫病で、広範囲に《No Man's Land》化したことは、黒死病を含めて人類の経験上ありません。従いまして、人類の中の「誰か」たちはある程度、生き延びるのでしょうから、私は意外に楽観的です。それが自分以外の「誰か」ではあるにしても。

※本記事中の、素晴らしい6つのすべてのグラフは、下記のサイト様よりお借りしました。ありがとうございます。
WTI原油スポット価格 長期推移(チャート、変動要因) - ファイナンシャルスター

chart1

 Oil_1970_newpdf

chart2

Oil_1980_newpdf

chart3

Oil_1990_newpdf

chart4

Oil_2000_newpdf

chart5

Oil_2010_202110pdf

※See below. (2021/12/02)
1)「石油」に浮かぶ文明/ A civilization floating on "oil": 本に溺れたい
2) After oil を予想すると・・・/ After oil is expected to...: 本に溺れたい
3) Peak oil 後の世界/ The world after peak oil: 本に溺れたい

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