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2020年7月14日 (火)

塩沢由典『増補 複雑系経済学入門』2020年5月ちくま学芸文庫(6)

前回より

◆書評3人間社会の「秩序」は、人間の「合理性」から生まれるか?(その3)

 「第3部 合理性の限界とその帰結」への書評、の3回目です。

 世界の頑健性(robustness of World)、あるいはシステムの頑健性(robustness of system)は、多数の自律的エージェントが相互作用を通じて出現する動的な系(その有力な一つが、複雑系としての市場経済)においては、一種の《公理》とも言えます。

 例えば、私が自分の些細な買い物の購入計画を決定し、その決定事項を市場管理者のオークショナーに報告するまでは全市場の価格が決まらないとか、私がちょっとした気紛れで購入メニューを変更すると再び全ての市場価格が模索過程に入ってしまう、などという新古典派経済学の一般均衡論のような市場像では、個人がおちおち安心して自由に買い物もできません。むしろ「自分がどうであれ、《世界》はまわる」ことは、エージェント側から見た行動の自由を保証する大切な要件であるわけです。それからすると、新古典派経済学の市場像は、「自由社会/自由経済」を標榜する自己ラベリングに相違して、実はかなり「全体主義的」と評してもよいのではないでしょうか。だからこそ、「社会主義経済計算論争」において、一般均衡理論は常に計画経済支持者に親和的だったのです※。

※「全体主義的」理論ともみなせる一般均衡理論がなぜ、自由主義経済のチャンピオンである北米合衆国の20世紀の知的世界を席巻したのか、極めて奇怪な史実です。その理由は、この理論の根底に、「過去の経験をもたない人間」が「なんの前提も置くことなしに」、《世界》を「個人の行動から構成できる」(本書第8章p.266)とする信念があり、それは、「新世界」として出発した北米合衆国が固執する、《旧世界》と決別した「アメリカ」は人類の「未来(=希望)」を体現する国家であるべきだ、という強迫観念と「選択的親和性 elective affinities」を示したからです。北米のネオコンが、かつての若きトロッキストたちの出自を持ち、「リセット主義者」であり、冷戦終結後に「歴史の終焉」を論じたのも不思議ではありません。

 一方での、エージェントの能力の三つの限界から帰結される定型行動、他方でのシステムの定常性(反復/循環)〔本書p.240-2〕。これは、鍵と鍵穴のように互いに他を与件とします。このとき、システムは、エージェントの定型行動と、システムの定常性(反復/循環)が相互因果作用の結果として共時的に創発していますが、この機序をチェックするアプローチがミクロ・マクロ・ループ〔本書p.242-4〕です。

次回へ、この項続く

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