塩沢由典『増補 複雑系経済学入門』2020年5月ちくま学芸文庫(7)
前回より
◆書評3 人間社会の「秩序」は、人間の「合理性」から生まれるか?(その4)
「第3部 合理性の限界とその帰結」への書評、の4回目です。いまだ第7章が続いて恐縮ですが、もう少しお付き合い下さい。
私が本書で最も感銘を受ける箇所は、本章p.245における下記の部分です。
「行動が定型化されていることは、合理性の限界をもつ人間にとっては、制約というより、可能性を切り開くものです。」
「慣習を、社会が成員に課す保守的な行動の制約とばかり解釈してはなりません。慣習にそのような制約的働きがないとはいえませんが、第一義的には慣習は、社会がその成員にたいし、社会に必要な定型行動のレパートリーを示すものと考えるべきです。」
そして、私が自分なりの歴史理論を構築する際に支えとなっているのが、本章p.248-9の下記です。
「社会的諸制度も、技術とおなじように、社会・共同体に有用な知識としての側面があります。」p.248
「制度が社会的な知識の一存在形式」p.249
私は、《合理性の限界》の下にある人間の行動を支援する一切のものを、《資源 resources》と呼んでいます。学習用テキストに記載されている「知識」、言語化され形式知化されている技術、暗黙知的な技能、目的行動におけるちょっとしたコツ、制度、社会的慣習、個人の習慣、そして、母語としての言語。自由な諸個人を拘束しているかのように見なされがちな「伝統」でさえも、《資源 resources》であり、人間行動を支援し、より自由にしてくれるものです。私の「資源論」、「歴史理論」については下記をご参照頂ければ幸甚。
ブリコラージュと資源論(Bricolage and theory of resources): 本に溺れたい
私の「複雑系理論歴史学」のアウトライン Outline of "complexity theory on history ": 本に溺れたい
次回に、この項続く
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