「身分社会」再考
前近代の「身分社会」。アカデミズムが職業として確立したのは、「市民社会」「近代社会」でした。
だから「アカデミズム」は「近代」を弁証する必要と義務がありました。そのため、前近代の「身分社会」というものが、一体どんな代物だったのか、「近代人」には実はうまく理解(or「評価」)できなくなっている。「言論」を政治的武器とする弁舌の輩、福澤諭吉が「門閥制度は親の敵でござる」(『新訂 福翁自伝 (岩波文庫)』p.14)と高らかに言い放つと、もうこの言説に抗することが出来なくなってしまいました。
では、かといって、「近代社会」は、社会に生きる人々の「身分」なるものをきれいさっぱり清算できたのか。そうではない。実のところ、 informal and invisible な「身分」が確固として存在します。かつての「身分社会」であれば、各身分にバンドルされた(bundled)義務と権利の束がひとを保護/拘束していましたが、身分が消えると同時にこの社会契約も消えました。かつては盲(めくら)は平曲や按摩になり検校を目指す。現代の身体障碍者(盲)は国家に飼われている。これが本当に「善い」社会なのか。
評価は難しいですが、近代社会が行き詰まったいま、果たしてあの「身分社会」がいったいなんだったのか。我々はそういう問題意識で「徳川社会」の再考を迫られていると思います。
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