橋爪大三郎氏の書評『日本を開国させた男、松平忠固』(毎日新聞/今週の本棚)
先に、弊ブログで書評記事を掲載しました、関 良基『日本を開国させた男、松平忠固: 近代日本の礎を築いた老中』作品社 2020年07月15日刊に、橋爪大三郎氏が書評を寄せられました。
ほぼそのまま本書の主旨をトレースし、紹介されています。これは大いに結構。
ただし、最期の段落にこうあります。
「尊王攘夷は非合理な自民族中心主義で、近代化を損ない、明治国家を歪め、大東亜戦争を招いた。」
これは、本著者の行論通り、問題なさそうに見えます。では、中学生の作文を分解するように、分解してみます。まず述語から。
〔述語〕「損ない」、「歪め」、「招いた」
では、「なにが」それらをなしたのか。
〔主語〕「尊王攘夷は」
となっています。文意そのままであれば、「尊皇攘夷」が「(近代化を)損ない」、「(明治国家を)歪め」、「(大東亜戦争を)招いた」となります。
しかし、私が本書を読んだ限りでは、〔時の朝廷(孝明天皇)が幕府支持だったため〕、政治的形勢不利だった長州/薩摩連合は「尊皇攘夷」運動/思想に便乗して、勢いで一気に「明治維新」で権力を簒奪、明治国家を建設し、「尊皇攘夷」を〔モダン化した「忠君愛国」を〕国是に、ゆけゆけドンドンで突っ走り、大東亜戦争で敢え無く敗北し、愛すべき国土を焦土と化した、ということになります。
すなわち、尊皇攘夷=明治維新=明治国家=亡国、です。「尊皇攘夷」という幽霊が、米軍による占領統治という国辱を帰結したというより、明治国家そのものが国と民を亡国へ導いたことになります。
要するに、A「明治国家を歪め」たのではなく、B「明治国家が歪め」た、が本著者の主張でしょう。AとBでは本質的に文意が変わってしまうのでは、と懸念します。
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