現象学者としての朱子/ Zhu Xi as a Phenomenologist
まずは二書からの引用をみて下さい(引用中のカラーフォントは引用者による)。
現象学の立場から言えば、私たちは心のなかにあるもっとも純粋な状態を拠り所にすることで、世のなかにある様々な偏見に囚われずにものを見ることができる。文字文化や学校教育からくる夾雑物を取り去って、心を惑わすものから純化された、最も正しいものを見ることができる。これがサルトルの立場であり、もともとはデカルトの立場である。
加藤尚武『20世紀の思想 マルクスからデリダへ』1997年PHP新書 、第四章解釈学と構造主義、「デリダ」p.118
それはつまり程度の差こそあれ善は人間の普遍な必然であり、悪は人間の必然ではないとする思考である。悪はむしろ人間の偶然であり、たとえば鏡の表面に付着したほこりである。それを除去すれば、本来の明鏡に復帰し得るというのが、宋の朱子学の説であり、江戸初期の惺窩羅山の祖述するものも、それであった。
吉川幸次郎、「仁斎・徂徠・宣長」序、決定版 吉川幸次郎全集〈第17巻〉日本篇(上)、1975年、p.545
上記二書における、現象学と朱子学の要約がそれぞれ適切であるなら、西欧におけるデカルト(1596-1650)の相対的位置は、中華帝国における朱子(1130-1200)に比定できます。中国史における「宋朝近世」説あるいは「初期近代としての宋朝」説への、一つの手掛かりと考えても宜しいでしょう。
〔参照1〕cogito ergo sum(われ思う、故にわれ在り): 本に溺れたい
〔参照2〕小津富之助とは何者か(2): 本に溺れたい
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