日本の教育システムの硬直性は「儒教」文化に起因するか?
これは、日本の知的世界全般にある「誤解」あるいは「認識論的障害」ではないか、と思います。
もし「儒教的」というなら、社会の全面的(冠婚葬祭を含む)「儒教化」を成し遂げてきた、中国や韓国こそが「儒教的文化」と言うことは可能です。しかし、それに比較すれば、日本は「非(non-)儒教的」、強いていえば「反(anti-)儒教的」な要素も多分に強い社会を形成してきています。
従いまして、日本の教育制度の硬直性(子どもの主体的関わりを軽視する)の淵源は、別の点にあるように思います。
教育業界に身を置いて、他の講師、保護者を観察すると、彼らは「せっかち」「性急」過ぎる、と感じます。裏を返せば「待てない」のです。なぜなら、教育とは「大人(知者)が子ども(野蛮人)に教え込むこと」、と天から信じて微塵も疑っていからです。「文明人」は「野蛮人」を待つ必要がないのです。いわば、(甘口の)19世紀的「啓蒙思想」です。
子どもは、ほっといても「育つ」「学ぶ」「まねる」エネルギーに横溢している生き物です。大人が「教え」てしまったら、むしろその発露を阻害し、その後は怖ろしいことに大人が「教える」ことを口を開けて待つようになります。これでは「知の家畜化」です。
私は、小テストを実施するとなるべく「自己採点」、それも他者の採点を出来る限りさせています。その上で、回収して私が「採点ミス」のミスをチェックし返却します。そうすることで、他者からも自己からも二重に「学ぶ」機会ができるからです。他の講師は、それが「怖い」ようで、決して自己採点させません。どうも採点ミスが怖いのだと思われます。しかし、それこそが「学び」の絶好の機会のはずです。己のやらかした「アホ」さに気付かざるを得ないのですから。
現状の、日本の教育システムのある種の「悲惨さ」は、日本人の「せっかち」さ、および、(甘口の)19世紀的「啓蒙思想」のアマルガムによる、子ども不信によるものではないか、と思います。それが「明治ボリシェヴィキ革命」によるものかどうか、はまだよく考えていません。しかし、「子ども不信」とは、「庶民不信」の変種と考えれば、それは「水戸学」そのものなので、その嫌疑は濃厚ではないか、いうのが、今のところの推測です。
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