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2021年5月17日 (月)

世界は驚きで満ちている/ The world is full of wonders

 中学生の皆さんの中には、理科や社会で困っているひとも多いでしょう。理科は得意でも社会がどうも苦手だとか、社会は暗記で乗り切れるけど理科の物理・化学分野がサッパリとか。でも困っているのは実は中学生のあなただけではありません。大人だって困っているのです。それはどういうことでしょうか。

 学校で使う教科書にはほぼ「正しい」ことだけが書かれています。だからといって《世界》がくまなく《わかり切っている》わけではありません。

 例えると、こういうことです。夜、つい飲み過ぎて酔っぱらってしまった男性が財布を落としてしまった。その男性はフラフラしながら懸命に外灯の下を探しています。そこで助けてあげようとあなたが尋ねます。「財布はそこで落とされたんですか。」すると件の酔っ払い氏は答えます。「いや、そっち。」と外灯の照らしていない暗闇を指します。そこで驚いたあなたは「なぜ落としたところを探さないんですか。」とさらに問い返します。返ってきた答えは「だって、そっちは暗くて何も見えないじゃないか。」と。

 教科書に書かれている安心保証書つきの内容は、外灯のあたっているよく見えるところなのです。実は、その外側にまださっぱりわからない、光があたっていない暗闇がいくらでもあるのです。一例を出しましょう。

「蛾やハエが空中で静止したり、急旋回したりするのはなぜなのか。どんな優れた安定性制御システムを備えた飛行機でも一旦失速すると直ちに墜落してしまうが、昆虫が突風の中を悠々と飛び抜けて決して墜ちないのはなぜなのか。我々は、空気力学のさまざま理論を蓄積し、ジャンボ ジェット機やステルス戦闘機を、統一された「定常理論」に基づいて設計できるようになった。だが毎秒20~600回も羽ばたく昆虫の羽がなぜ自重の2倍以上の揚力を発生できるかについては、いまだに多くの疑問が残っており、理路整然と説明できる理論がないと言っても過言ではない。」
劉 浩「生物飛行のシミュレーションと小型飛翔体」日本流体力学会数値流体力学部門Web会誌 第12巻 第3号 2005年1月

 飛翔する動物、特にハエなどの昆虫の《飛ぶ原理》が、現代でも実はよくわかっていないのです。それと似た話は、樹高100mを超えるメタセコイア杉のてっぺんにどうやって水を運んでいるのかという話題もあります。この問題も実は根本的な解明には至っていません。高校の生物で聞く「蒸散+浸透圧説」も最先端の研究から、強い疑問に晒されています。

 理科の話題だけではありません。社会だって似たような話はあります。一万円札がありますよね。あれを一枚作るのにどのくらいコストがかかるか知っていますか。数年前に日銀総裁が講演の中で触れています。一万円札一枚あたり十六円だそうです。日本銀行という株式会社は、いい商売ですよね。あの紙切れを一枚刷るごとに九九八四円儲かっていることになりますから。

 でもそんなにうまい儲け話なら、税収不足で大赤字の日本政府が一万円札を刷ればいいじゃないですか。なんでそうしないのでしょうか。それに日銀のその大儲けはいったいどこへ消えてしまうのでしょうか。経済に詳しいと自負されている親御さんが身近にいるなら一度尋ねてみましょう。どんな返事が戻ってくるでしょうか。 

問「あなたがこれまでに不思議だ、変だ、と感じた体験、気づいた経験を一つ以上、二百字以内で書いて下さい。それらについて、既に友だちや大人から答えを得ていたらそれも書いてください。その答えに今でも納得できないでいる場合は、その理由も書いて下さい。」

※参照 金言シリーズ(その7): 本に溺れたい

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