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2021年7月19日 (月)

書評Ⅱ:宇野重規著『トクヴィル 平等と不平等の理論家』2019年5月講談社学術文庫

宇野重規著『トクヴィル 平等と不平等の理論』2019年5月講談社学術文庫

 この書評は、に分かれます。前者は私のレビュー。は、目次および本書からの書抜き、抜粋で構成されています。内容を手早く知りたい方はを先にお読みください。私のレビューに関心をお持ちいただけましたら、にも眼を通して頂ければ幸甚です。

 

目次
はじめに
第一章 青年トクヴィル、アメリカに旅立つ
1生まれた時代と家庭環境
2知的遍歴
3『デモクラシー』執筆まで
第二章 平等と不平等の理論家
1平等化とは何か
2平等社会のダイナミズム
3平等社会の両義性
第三章 トクヴィルの見たアメリカ
1アメリカを論じるということ
2政治的社会としてのアメリカ
3宗教的社会としてのアメリカ
第四章 「デモクラシー」の自己変革能力
1結社
2宗教
3自治と陪審
結び トクヴィルの今日的意義
補章 二十一世紀においてトクヴィルを読むために

トクヴィル (1805-1859)文化2年~安政6年
内田五観 (1805-1882):赤松小三郎の和算の師
藤田東湖 (1806-1855)
横井小楠 (1809-1869)

◆本書の三つの課題(「はじめに」より)
1)トクヴィルの〈思想〉は、単なるアメリカ論、あるいはフランス革命論としてではなく、近代社会の特質を「デモクラシー」という概念を通じて包括的に説明するグランド・セオリーとして読まれるべきである(p.17)

2)トクヴィルは、アメリカにおいて見いだした「デモクラシー」が「デモクラシー」の唯一のモデルどころか、かならずしも最善の「デモクラシー」であるとすら考えておらず、慎重に「デモクラシー」社会の特質と、アメリカ社会の特質とを区別しようとしていた(p.19)

3)トクヴィルが未来の社会構想のために、如何なるヴィジョンを提示しているのかを明らかにする(p.21)


◆課題1への回答 ⇒ 第二章 平等と不平等の理論家(pp.57-91、35頁)
 《近代社会の本質が、「諸条件の平等」によって特徴づけられる「デモクラシー」の発展にあるならば、トクヴィルはまさにそのようなグランド・セオリーの定礎者と言うことになる。》p.59

《平等の想像力 p.61》を獲得した人間 ⇔〈民主的人間 ホモ・デモクラティクス p.64〉
平等社会での個性の追求 p.69
《「デモクラシー」の社会における個性の追求は、平等の枠内において、平等が許容するかたちで差異を取り戻そうとする試み》

平等社会のダイナミズム、とはなにか?
《平等社会において、不平等を正当化する論理はもはや存在しなくなる p.75》
《「デモクラシー」の社会は、異議申し立てに開かれた社会であり、またつねに新たな異議申し立てを生み出していく社会 p.76》
・残された問題 《エスニシティ p.78》

理論家トクヴィルの〈可能性の中心〉p.80
 平等社会のダイナミズムこそが歴史を動かす、近代社会の最大の特徴

平等社会の負の側面
《精神のデカルト主義p.80》
《何ごとも自分で判断し選択することは、〈民主的人間〉にとっての誇りであるとともに、不安と困惑の原因 p.82》
《後見的権力 p.91》 岩波文庫版 第二巻(下)p.256

〈民主的人間 ホモ・デモクラティクス〉が生み出すもの
・精神的デカルト主義(p.81)
・個人主義 自己の外部や他者に対する関心の希薄化(p.85)
・多数の暴政(p.87)
・民主的専制(p.89
《特定の人間による個別的な支配と切り離された、非人格化した集団的権力による支配に対してはむしろ、容易にこれに隷従する、p.90》


◆課題2への回答 ⇒ 第三章 トクヴィルの見たアメリカ(pp.92-128、37頁)

p.96『デモクラシー』=アメリカ社会の自己理解の重要な一部
→ アメリカ人を読者として、アメリカ論として読み継がれてきた
・『デモクラシー』第1巻の課題 〈民主的人間〉は秩序を作ることができるか? p.102
・政治的な平等の課題 人々が平等に自由になるか、人々が平等に隷属するか、p.106
・「人民主権」=完全な平等に立脚した自治の精神
・「平等な自由」、p.107  =民主的人間の秩序原則
・アメリカの政治社会の特徴 = 「平等な自由」+「水平的な秩序原理」p.108
《優れた少数者の知恵よりも、健全な利害感覚を持った多くの個人の個別的な行為の積み重ねに期待するというのが、アメリカの政治制度の根本的特質》p.110
・「政治の集権」国の全体的利害や外交関係については一元的な判断がなされていることp111
・「行政の集権」国民の自立心を奪う、地域のことがらまでも中央政府が干渉すること
・p.112《自治の精神という小国のメリットと、国民の多様性とそのエネルギーという大国のメリットを兼ね備えた国》⇔アメリカ

・要因1=地理的孤立 他国からの干渉がない、p.112-4
・要因2=歴史的条件 ニュー・イングランド(「イギリス系アメリカ人」の政治的成熟度)こそが、アメリカの原像となった、p.116
・p.120 アメリカの「出発点」において、「宗教の精神」と「自由の精神」が不可分の一体 ⇔ 宗教と国家の完全な分離、p.123

・アメリカ社会の独自性 p.126
1)革命なしに平等を実現している
2)きわめて分権的で、水平的な秩序原理によって運営されている
3)きわめて宗教的

「トクヴィルの逆説」、の発見
p.127 平等化のメカニズムが作動することであらゆる秩序の自明性が問い直され、場合によっては「多数の暴政」や「民主的専制」に陥る危険性を持つデモクラシー社会において、このようなアメリカの古さが、むしろ弊害を是正し、安定したデモクラシーの運営に貢献する可能性を持つと考えた


◆課題3への回答 ⇒ 第四章 「デモクラシー」の自己変革能力(pp.129-167、39頁)

トクヴィルの結社論 p.130-43
p.142-43《平等を基本的原理とし、同質性を基調とする「デモクラシー」の社会において結社はむしろ異質性を保持し涵養する、同質性社会に浮かぶ小宇宙とされる。トクヴィルが期待したのは、個人が異質な他者と出会い、異質な他者とともに行動することを学ぶ場としての結社》
※目的 p.143
「デモクラシー」の中に、「デモクラシー」とは異質な原理を保持する要素を埋め込むこと

トクヴィルの宗教論 p.144-56

※権利の観念 p.153
・人々の利益に対する執着を否定するのではなく、むしろそれを精神的に高めるものである。また一人ひとりに権利の行使を享受させることで、その意義を理解させ、他者の権利を尊重するよう、人々を促すものでもある。アメリカ人はかならずしも有徳な人ばかりではないとしても、徳に代わる権利の観念については、広く普及している。トクヴィルはここにアメリカにおける「デモクラシー」の精神的な基礎を見て取るのである。

※知性の健全な枠 p.154-5
・トクヴィルは、宗教は人間の知性に「健全な枠」をはめるという。…、人間はすべてを懐疑の対象にすることはできないと、トクヴィルは考えた。この世界には、一人ひとりの理性ではなかなか到達できないものの、確固とした信念を持つことが望ましいものが存在する。それが、人間と神の関係、人間と人間との基本的関係

※「デモクラシー」の健全な運営を支えるような価値や原則は(p.156)、
・「デモクラシー」の外部
・「デモクラシー」による価値の平準化を超えたところにあるべき

アメリカにおける自治と陪審 p.156-67
※『ザ・フェデラリスト』vs,『デモクラシー』p.161
『ザ・フェデラリスト』→ 精緻な連邦システムとその制度設計
『デモクラシー』→ 社会のより基本的なレベルにおける実践の分析
p.161《地域共同体の自由は簡単には確立しないが、自由が真に社会に根を下ろすのは地域共同体の中である。》
p.163《個々の問題の処理としては、地域自治が最善の答えを出すとは限らない。しかしながら、自治は人々の精神を拡大し、結果的には国民全体の活力を生み出す。そうだとすれば、少数者の英知なるものに基礎を置く政治よりも、健全な民主的諸制度によって支えられた「デモクラシー」社会が生み出す活力に期待すべき》
※陪審制の効用
p.165《人が、自分の為したことの責任をとらなければならないこと、また社会に対してなすべき義務があることを知るのは陪審を通じてである。また陪審の場においてこそ、統治に参加していることを実感できる。その意味で陪審制は、実用的知性と政治的良識を教える学校にほかならない。》

※トクヴィルの夢みた「デモクラシー」未来像
p.167《トクヴィルが構想するさまざまな仕組みは、市民の精神的自己変革の場を提供するものである。一人ひとりの市民が、多様な他者と出会い、お互いを尊重しながら、合意を生み出していく。その過程で、各個人は、自分の個別の問題と社会との結びつきを再確認し、「いま・ここ」を超えた視座を獲得していく。このような各個人の自己変容の集積によって、「デモクラシー」のダイナミズムと自己変革能力が再創造されること》


◆結び トクヴィルの今日的意義 p.168-89

※トクヴィルの予言
p.171(平等化が進んだ)社会において、不平等はもはや自明視されず、平等への想像力を持ってしまった人々によって、次々に異議申し立てを受けるであろう。そしてそのような異議申し立てによって、今後の歴史のダイナミズムが決定されていくことになるであろう。》

※予言がなされて以後の世界
第一の時期:伝統的な枠組みから解き放たれた諸個人の、国民国家への再編
→ 予言・有効
第二の時期:現代のグローバリズム 《ポスト国民国家時代の平等》
→ 予言・さらに有効
 ⇔〔理由〕p.175《平等と不平等の織り成すダイナミズムは、グローバルなレベルで猛威をふるっているから》 21世紀におけるトクヴィル・リヴァイバルの最大の理由

※21世紀における『デモクラシー』p.179
・アメリカにおける自己確認のための書
・アメリカの《普遍性》と《特殊性》の再吟味のための書

※トクヴィルが示す「デモクラシー」の謎 p.181
《そこに暮らす個人が自立して思考しようととすればするほどむしろ他者の意見に従属することになり、自分の頭で考えようとすればするほどむしろ自分の思考の無根拠性にぶち当たってしまう》
《平等になった諸個人からなる社会が、平等に自由になるよりは、平等に従属する方に傾きがちである》

※トクヴィルの最大の示唆 p.182
《平等な自由概念が向き合わざるをえない内的な脆弱性》
《無根拠性やそれに由来する不確実性・不確定性に引きつけて「デモクラシー」を理解したこと》

※脆弱性を補完する二つの方向性 p182-3
1.「デモクラシー」とは異質な原理を、「デモクラシー」社会の中に組み込む
2.一定の条件の下、人々の多様な知や力が結集する

※知の権威の再編 p.185
《インターネットの普及による平等化が、より望ましい「デモクラシー」に結びつくのか、あるいは「多数者の専制」と結びつくのか》

※「デモクラシー」の未来像
p.187《あくまでも平等化の進展を正当なものとして承認したうえで、その矛盾、その混乱をあえて引き受けて、新しい社会組織や個人の生き方のモデルを構想していくことにかかっている》
p.189《…、「デモクラシー」とはあくまで一線を画した諸領域、諸原理ですらも、広い意味での「デモクラシー」の機能連関に組み込むことによって、有効な秩序を多元的に構想することに役立つ。一枚岩ではない、複合的な正当性の諸原理を包括する「デモクラシー」を模索し続けること、それがトクヴィルの残してくれた知的遺産を今日的に活用することである。》


◆補章 二十一世紀においてトクヴィルを読むために

※トクヴィル的状況
p.205《デモクラシー社会における知的権威の後退》
p.207《自分の頭でものを考えようとする人が、逆に、身の周りにいる自分と同じような他人の声に振り回されやすくなる。このことを、トクヴィルは矛盾とは考えなかった。あらゆる権威を否定する平等化時代の個人は、すべてを自分のうちに見出そうとする。しかしながら、自分のうちに絶対的なものがあるわけではない。結局、自分の頭で考えようとすればするほど、他人の影響を受けやすくなる。特定の個人の権威を認めないにもかかわらず、多数者の声に対してはひどく従順になることこそ、トクヴィル的とでも呼ぶべき状況であった。》

※SNS時代の知的「権威」
p.209《…トクヴィルは、その独自の「個人主義」論において、他人との関係が希薄化した平等化時代の個人が、自分の世界に閉じこもりつつも、世の中の動きに無関心ではいられないと論じた。そのような個人はむしろ人一倍、世論の動向や流行に敏感である。孤立しているがその精神状態は落ち着かず、つねに焦燥感に駆り立てられている。すぐ隣の人とさえコミュニケーションを取ることがなく、自らの世界に完全に閉じこもっているにもかかわらず、その外にある社会の動きを四六時中チェックしている人間。社会の変化に一喜一憂し、流行に遅れることに何よりも焦りを感じる人間。今から二百年近く前を生きたトクヴィルの分析した人間像が、不思議と21世紀の日本社会にもそのまま存在するように見えるのは、著者だけではあるまい。》

※ジャクソニアン・デモクラシー p.210
※トクヴィルとポピュリズム p.211
※ポスト・トゥルースとデモクラシー p.213
※グローバリズムとトクヴィル p.215
※現代世界に対するトクヴィルの処方箋 p.216-9
p.219《…、トクヴィルにとって何よりも重要だったのは、平等化の進展が不可逆のものであり、デモクラシー社会をより良いものにしていくほかに道はない、という信念であった。…。平等化が人類の共通の未来である以上、ありうるのはすべての人が等しく自由になるか、あるいは等しく隷属するかの二者択一しかない。その意味で、「平等な隷属」ではなく、「平等な自由」こそがトクヴィルの最大の信念であった。現代世界が大きく変容するなかで、新たな社会を構想する上での最大の指針が「平等な自由」であることはきわめて重要であろう。》

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