肉体は頭の下僕?/ Is the body a servant of the head?
ギリシア都市国家群から、アレクサンドロスの大帝国へ、そしてローマの地中海帝国への遷移は、政治的変化だけではなく、エピステーメー(世界認知の枠組み)の遷移をも伴っています。下記の引用は、以下訳書から
リヒアルト・ハルダー『ギリシアの文化』北斗出版(1985) pp.20-21
Richard Harder, Eigenart der Griechen / Einfuerung in die Griechische Kultur, Verag Herder GmbH, 1962
「裸像の肉体は、いわば完全な肉体である。ギリシア語では肉体と人間とは、同じ単語で表現されていた。このような人間像は、ローマ人あるいはエトルリア人のような他民族の人間像ときわだった対照をなしている。ローマ人やエトルリア人にとっては、頭が人間の主要部であった。またラテン語では、頭という単語が、そのまま「人間」を意味することができた。われわれドイツ人もこのような人間観をうけ継いでおり、このことは、たとえばドイツ語に「(人)頭税」という単語があることからも理解できる。もっともギリシア人も、ある程度頭を他の部分よりも重要視していた故、ギリシア語においても感情に訴える演説では、「頭」あるいは「眼」でもって人間をいいあらわすことができた。しかしギリシア人には、頭以外に胴体や四肢も、高度に個人的なものを示すものであり、胸が、感情や思考の座であった。だがその後プラトンは、このような人間観に反対し、天国に向かって「アクロポリス」のように聳えている頭を、知力の座と記している。このプラトンの見解とともに人間像の新時代が始まった。そしてその後600年を経て、プロティノスは、この新時代の結語として、宇宙の如何なる生物においても、頭と顔は、下の部分つまり胴体や四肢より美しいと述べている。」
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