女の忠誠心 十二世紀のフェミニズム
つまり、だからこそ右京大夫は『建礼門院右京大夫集』を残した。男たちの時代とされ、『平家物語』に象徴される男たちの物語の裏、そこに生きた女たちの物語を歌と詞章をもって記しとどめたのである。建礼門院への忠節、男たちのものとされる忠誠を、彼女は女性から女性への新しいかたちとして、文学を介して貫いた。
長年の願い叶って定家卿から右京大夫に「勅撰集」への歌の推薦の報が伝えられたとき、彼女は、言の葉のもし世に散らば偲ばしき昔の名こそとめまほしけれ(四六〇)
そう歌い、「建礼門院右京大夫」の名をもって、集に収められることを願い出た。時はすでに源氏の世である鎌倉時代。にもかかわらずの建礼門院への忠誠である。そこに私は、建礼門院右京大夫の女性ながらの高い志と、底に秘められた資盛への思慕の念を見る思いがする。
道浦母都子「昔の名こそ 建礼門院右京大夫」、『群青の譜』2000年河出書房新社、pp.57-8
グローバル・ヒストリーから見て、平安期の一群の女性作家たちの光芒は、古代地中海世界、中華帝国世界と比較すると、ひときわ特異であった、と表現できます。物語の作り手として、詩人(歌人)として、男たちに伍して、あるいは凌駕して活躍した古代日本の女たち。この人類史的再評価は日本人の特権であり、義務だと思います。
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