文学と vulnerability(攻撃誘発性)/ Literature and Vulnerability
物語の主人公は、大抵なにかしらの、弱さ、脆弱性、傷つきやすさ(vulnerability)を持ちます。
田辺聖子「ジョゼと虎と魚たち」1984年の主人公、ジョゼは、赤ん坊のとき母親に捨てられ、十四のとき再婚する父に捨てられます。下肢麻痺の車椅子生活で、若い女です。これらのすべてに見合うように、夜中、祖母との外出時、坂上から誰かに車椅子ごとを突き落とされ、祖母の死のためアパートでの一人暮らしを強いられると、そこの住人の中年男から、白昼堂々とセクハラを迫られます。彼女における「傷つきやすさ(vulnerability)」は、ものの見事に、他者からの「攻撃誘発性(vulnerability)」に転化します。
柏原兵三『長い道』中公文庫1989年の主人公、潔(きよし)は、戦時下の学童疎開地において、圧倒的「傷つきやすさ(vulnerability)」を有し、それはその地における彼の「攻撃誘発性(vulnerability)」に直結します。暴力に怯えた潔は膝を屈し徹底した卑屈さによってその中で生き残りを図ります。少年たちの〈国家〉に〝革命〟が起きると、一転して脆弱な(vulnerable)な存在となった、旧支配者である進は、「お前ら、俺を殺す気か?」とまで吐く、暴力による凄惨な報復を受けるに至ります。
人類史のうえで、最も vulnerable(「脆弱」かつ「攻撃誘発的」)な存在の人びとのひとつであるユダヤの民の歴史を語る旧約聖書は、一面では、vulnerability を象徴する物語とも言えるでしょう。
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