« The genuine "leader" by Peter F. Drucker / 真のリーダー(ピーター・ドラッカー) | トップページ | 沢田マンション:日本の カサ・ミラ〔1〕/Sawada Manshon: Casa Milà, Japón〔1〕 »

2023年9月18日 (月)

戦後日本の食料自給率なぜ低下したか?/ Why did Japan's food self-sufficiency rate decline after World War II?

なかなか気になる新聞記事がありました。下記。

農家が8割減る日 主食はイモ、国産ホウレンソウ消滅? - 日本経済新聞(

記者自ら、コメ主食から、農水省推奨の代替主食イモで、献立し試食したところ、三日目の昼食にはギブアップしたとのこと。記事中で、半世紀後、国内農作物は下記の事態を迎えると予想されています。

上記、日経記事より。

その理由は、今後、複数の要因で、離農が進行して、農家人口が急激に減少するからです。

上図、日経記事より。

では、世界に冠たる《先進国日本》がなぜ、こんな、Les Misérables、な事態になり果ててしまうかと言えば、敗戦後、下記のような《思想》が力を有したことも、一つの要因です。

林髞(はやし・たかし)著『頭脳 才能をひきだす処方箋』(著者は当時、慶應大学名誉教授)
1958年、光文社〔カッパ・ブックス〕、pp.161-2
昭和33年9月25日初版
昭和33年11月10日16版(下のPDFをDLして本文をご参照ください。)
ダウンロード - e69e97e9ab9e20195820e3808ee9a0ade884b320e6898de883bde38292e381b2e3818de381a0e38199e587a6e696b9e7ae8be3808f.pdf

昭和36年5月15日42版(自家蔵)より

「そこで、主食として白米を食するということは、とくに少年少女のためにたいへんなことであると考えなければならない。親たちが白米で子供を育てるということは、その子供の頭脳の働きをできなくさせる結果となり、ひいては、その子供が大人になってから、またその子供を育てるのに、ばかなことをくりかえすことになる。

 どうしたらよいか。これはせめて子供の主食だけはパンにした方がよいということである。大人もできればそうしたいが、日本ではそれはなかなかたいへんであろう。とくに農業立国であり、米を食わないとなると血の雨が降らずにはすむまい。だから、そういうことはこわくて言えない。
 大人はもう、そういうことで育てられてしまったであるから、あきらめよう。悪条件がかさなっているのだから、運命とあきらめよう。しかし、せめて子供たちの将来だけは、私どもとちがって、頭脳のよく働く、アメリカ人やソ連人と対等に話のできる子供に育ててやるのがほんとうである。」


朝日新聞「天声人語」1958年3月11日付より

「近年せっかくパンやメン類など粉食が普及しかけたのに、豊年の声につられて白米食に逆もどりするのでは、豊作も幸いとばかりはいえなくなる。としをとると米食に傾くものだが、親たちが自分の好みのままに次代の子供たちにまで米食のおつき合いをさせるのはよくない」

こういうメンタリティには、敗戦国民、三等国民、という、当時の負け犬根性も大きく災いしているでしょう。あの志賀直哉だって、日本語で飯を喰っているにも関わらず、国語をフランス語にかえるべき、と論陣を張っていたのですから。下記、参照。

かつて神様は日本語を廃せ、と告げられた〔2〕: 本に溺れたい

日経記事にも登場する、鈴木宣弘東大教授が指摘するように、戦後日本の真の統治者であった、GHQの企図もあったでしょう。

これについては、鈴木宣弘著『世界で最初に飢えるのは日本 ー食の安全保障をどう守るか』第二章、2022年講談社α新書、を参照

何にしても、食生活や味覚、といったものは習慣として、幼児から青少年期にかけて形成されるもの。そう簡単に右から左へ切り替えることは難しい。それは、記事中、および上著で鈴木教授が提案している、この列島の民にかつて実在した、「半農半漁」生活のような、「半農半サラリーマン」生活についても言えることではないか、と思います。私も鈴木教授の提案が、大都市圏人口の列島中への分散と並行して進むことが、有効な一つの(というか、多分唯一の)解決策だと思っていますが、どういうプロセスでそれが実現可能なのか、リアリティを伴って想像することがいまだに難しいと感じています。

|

« The genuine "leader" by Peter F. Drucker / 真のリーダー(ピーター・ドラッカー) | トップページ | 沢田マンション:日本の カサ・ミラ〔1〕/Sawada Manshon: Casa Milà, Japón〔1〕 »

書評・紹介(book review)」カテゴリの記事

日米安保 (Japan-US Security Treaty)」カテゴリの記事

米国 (United States of America)」カテゴリの記事

環境問題 (environment)」カテゴリの記事

歴史と人口 (history and population)」カテゴリの記事

PDF」カテゴリの記事

コメント

遍照飛龍 さん
コメント、ありがとうございます。

現状、農家の9割が赤字だそうです。大抵は、機械の修繕維持費がネックで、それを年金で補填しているとか。これは完全にRedbook(絶滅危惧種)レベルです。ここまでくると、ブレーキをかけるのが少々難しい。いつまでも、食料をカネで買える保証も、そのカネが残っている保証もないのですが。私たちこの列島の住人は、21世紀の子や孫の世代に、戦時下や敗戦直後の食糧難に再び見舞われるのかも知れません。他人事で言っているつもりではないのですが、私にも妙案がない。

投稿: renqing | 2023年10月 8日 (日) 22時24分

同感です。

もっと思うと「専一にやるべき」って思想もあるし、「半農半サラリーマン」も「不忠者」で許しがたい・・・て、特に経営者連中・経団連は、思うでしょうね。

日本人て真面目だけど「頭のねじが一個足りない」人が多いと思う。
ある種の権威主義なのでしょうね。

農家の「一種の権威主義への居座り」も、自然に都市民の忌避もあったし、また都市民も元は農家の次男三男だけど、どうも宗教界も檀家制度とかで、都市民の多くを見捨ててきた。
そんなのもあるのかな・・て思う。

感じるところを二三書いてみました。


投稿: 遍照飛龍 | 2023年9月21日 (木) 10時04分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




« The genuine "leader" by Peter F. Drucker / 真のリーダー(ピーター・ドラッカー) | トップページ | 沢田マンション:日本の カサ・ミラ〔1〕/Sawada Manshon: Casa Milà, Japón〔1〕 »