「法の支配」か「法による支配」か?/ Rule of Law or Rule by Law?
Rule of Law は、「法治主義」とは異なる。法治主義という言葉も人によって若干用法が違うが、基本的には、統治が法律によって行われなければならないとする原理であると言ってよいであろう。具体的には、法治主義は、国民に義務を課す法の定立は(細部はともかくとして少なくともその大綱は)議会のよる法律の制定という形でなされるべきこと、司法は独立の裁判所により法律に準拠して行われるべきこと、行政もまた予め定められた法規に基づいて行われるべきことを、要求するものであるとされる。このように、法治主義は、英語では rule by law と表現するのが適切な性質のものなのである。
これに対して、 rule of law は、統治される者だけでなく統治する者も、(「法律」ではなく)「法」に従うべきであるということを意味する。そこでの「法」という言葉には、自然法的な響きが籠められていることになる。そのような「法」が統治の各面を支配すべきだというのが、rule of law の真髄なのである。
田中英夫『英米法のことば』1986年有斐閣 pp.180-1
さて、大日本帝国憲法下における統治は、原則的には「法治主義」Rule by Law であったであろうと思われます。なぜなら、もし統治者が、自然法的な、統治者も被治者も、ともに実定法を超えた「法」に傅(かしず)かなくてはならない、とすれば、明治天皇は「皇祖皇宗の神霊」ではなく「法」に傅く羽目に陥るからです。ただし、その断末魔において大日本帝国は、連合国軍に傅かなくてはならなくなり、挙句に、地上から delete されてしまいました。では、その衣鉢を継ぐ、戦後の日本国の統治者たちは、明治の遺産である「法治主義」Rule by Law から、「法の支配」Rule of Law に鞍替えしたのでしょうか。
一応、両者の鵺的な position には移行したようです。というのも、戦後日本には、最高法規が二つあるからです。オモテの日本国憲法とウラの、日米安全保障条約および日米地位協定、です。そしてこの二つの最高法規がバッティングしそうになる度に、最高裁は高度な政治判断という「判断停止」を繰り返してきましたから、事実上、日本国の領土内での最高法規は、日米安全保障条約および日米地位協定、ということが論理的に帰結します。残念ながら、日本列島における「法の支配」とは、事実上「〈アメリカ合衆国=法〉の支配」の僭称であり続けていると言えそうです。
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