マイケル・オークショットの書評(1949年)、O.S.ウォーコップ『合理性への逸脱』1948年
以下は、Times Literary Supplement(15 January,1949), 45 に掲載されたマイケル・オークショット書評の日本語訳です。
※英語原文は、Michael Oakeshott's Review(1949), O.S.Wauchope, Deviation into Sense, 1948: 本に溺れたい へどうぞ。
書評本
Oswald Stewart Wauchope, Deviation into Sense: the Nature of Explanation.
London, Faber and Faber, 1948.
〔邦訳 O.S.ウォーコップ/深瀬基寛訳『ものの考え方:合理性への逸脱』昭和26年、弘文堂/昭和59年、講談社学術文庫 〕
◆ブログ主による注釈
20世紀における最も重要な政治哲学者の一人である、マイケル・オークショット(Michael Oakeshott)は、無類の書痴で、生涯に夥しい reviews を残しています。そのうちの一つに、なんと、故深瀬基寛氏が昭和26年に訳出した、O.S.ウォーコップ『ものの考え方 ー合理性への逸脱』弘文堂(のちに講談社学術文庫から復刊)の原本に対して、Times Literary Supplement上にreviewを書いていました。本書は、Faber & Faber,London という超一流の出版社(T.S.Eliotが学芸部門のdirectorをやっていた)から出されていたのですから、当時のLondonの知識人社会で多少は耳目を引いたと思うのですが、ほとんど無視され、何の知的痕跡も残しませんでした。分析哲学真っ盛りの当時の英米哲学では、こういう本は全く受けなかった訳です。4年のタイムラグで持ち込まれた二人の作家、オーウェルの『動物農場』をrejectして、全く無名の Wauchope の出版を決断したのはおそらく Eliot です。売れる筈のオーウェルを没にし、まあ売れないだろうウォーコップの出版決定をするとは、T.S. Eliotの偏屈さと聡明さをともに象徴しているとも言えそうです。
ま、そのおかげで、日本では素晴らしい訳が出て、それが、故安永浩氏の著作を通じて日本の精神医学界に安永ファントム空間理論へと大きな知脈を残しています。これも、「選択的親和性 Die Wahlverwandtshaften/Elective Affinities」(Max Weber)の事例だと思います。この Oakeshott の review は、Wauchope の提出した議論の面白さ、重大さを認識はしています。しかし、迷っている節があります。本書の反時代的偉大さにさすがの Oakeshott も決定的な支持を明確にはしていないようです。本書評はこう結ばれています。「しかし、読者が細部の誤りや支離滅裂さを嘆くことがあろうとも、本書はそのような誤りが致命的となる類の本ではない。 この本には、もっと重大な誤りにも耐えうるだけの天才と、十二分な生命力がある。」
西欧人、西欧の学知は、「合理性へ逸脱してしまった」という議論ですので、いまでも西欧人は嫌な顔をしそうです。非西欧人は本書をじっくり読んだ方がよいと思います。その呼び水になれば嬉しいです。
最近のコメント