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2005年5月 8日 (日)

英文学こぼれ話

 さて、平凡社の世界大百科事典といえば、現代において日本語で書かれた最も優れた大事典といえるでしょう。そこに19世紀英国を代表する一人の小説家の記述があります。

 名前をサッカレー(Thackeray,William Makepeace)といいますが、そのサッカレーの代表作に『虚栄の市(Vanity Fair)』があります。この小説は、岩波文庫でも翻訳されているもので特に英文学ということでなくとも小説好きの人なら読まれたことがあるのではないかと思われます(恥ずかしながら、私は読んだことがありません(-_-;)。「小説の世紀」といわれる19世紀の、英国を代表する作家の代表作ともなれば、無論、英文学史の年表があれば、ゴシックで印刷される作品であろうかと思われます。

 当然のごとく、平凡社の世界大百科事典でもこの作品に一項目を割いています。しかし、サッカレーの項目でも、『虚栄の市』のおいても、この作品のタイトルに込められた寓意について不思議なことに沈黙したままです。作者は作品に名前を与えるとき、恐らく最大限の智嚢をしぼって考えるかと思うのですが、少なくともこの事典の項目担当者は、そこらへんの機微をあまりご存知ないらしい。

 このサッカレーの『虚栄の市(Vanity Fair)』という書名は、『ロビンソン・クルーソー』『ガリバー旅行記』と並んで、英文学の作品中最も多くの言語に翻訳されている、バニヤン(Bunyan,John)の『天路歴程(The Pilgrim's Progress)』の中に出てくる名なのでありました。おそらく、サッカレー自身、そういう言わずもがなのことを言わなくとも読書人には当然分かるという前提でこのタイトルを考えたのであろうと推測できるのですが、極東の19世紀英文学研究者にはその「本歌取り」は通じなかったようです。

 日本の研究者には、みすみす自ら専門を限定することで、実はその専門の事柄にもある種基本的な無知になってしまう、という傾向がここから伺えるのではないか、と思われるのですが如何でしょうか。

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