禁裏様と呼べ!
「十三世紀初期から十八世紀末までの日本には、ある意味で、天皇は存在しない。」
渡辺浩『東アジアの王権と思想』東京大学出版会1997年
、p.7
なぜなら、この約五百年間、「天皇」の号は、生前も死後も正式には用いられなかったからである。江戸人には、「テンノー」なる不恰好な言葉はイミフメーだった訳だ。
大体、元来「天皇」なる言葉は、「すめらみこと」と読んだ。この語の復活普及に力があった水戸学が「テンノー」と呼称し、水戸学が幕末に普及する に及んで、この呼び方が共通となり、それに影響されている武士たちの作った武力クーデタ独裁政権が国家の力でむりやり定着化させたのだ。
その明治武力クーデタ独裁政権にうまく紛れこみ、東京帝国大学文科大学、国語学・国文学・国史第一講座、教授となりおおせたのが、水戸学者の栗田 寛(1835-99)である。ここらあたりが歴史イデオローグとなり、《明治クーデタのための江戸史の改竄》を推進したと私は睨んでいる。
上記、渡辺氏は、その著で、「天皇」ではなく、徳川期に普通の呼称だった「禁裏(様)」を使用している。
皇室に崇敬の念を持つなら、「天皇(テンノー)」を操り人形としか考えなかった明治人の真似せず、こう主張すべきだ。
「禁裏様、と呼べ。」
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コメント
今の日本史学上の用語は、密かに後期水戸学=薩長イデオロギーに操縦されています。「幕藩体制」など、怪しいものばかりと考えませう。
投稿: renqing | 2006年1月23日 (月) 06時50分
そっか、「てんのー」って、明治維新までは中国語(「すめらみこと」の音読み)だったわけですね。気を付けなきゃなあ。ご教示ありがとうございました。
投稿: 松本和志 | 2006年1月22日 (日) 06時37分