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2006年4月24日 (月)

明治「憲法」の起源(1)

 初めに言い訳を少し(-_-;。当初、明治憲法における軍のシビリアン・コントロールの問題について、ざっと考えをまとめるつもりでいた。しかし、資料集等を概観しながら、「憲法」という語にも考えるべき点がありそうだと感じたので、当面、この「憲法」という言葉を巡って少し書いてみたい。すみません。凝り性なもんで。(-_-;;;

 「憲法」。この語はいったい何か。憲法の教科書などをみると、まず“constitution”の訳だと書いてある。ならば、なぜ“constitution”の訳語に「憲法」という漢語が与えられたのか。私の簡単な調査では、このことを正面に論じたものがにわかに見当たらなかった。

 いずれにせよ、この語は漢語である。ということは、必ず中国古典にその使用例があるはず。すぐわかったのは、「国語」。これは、中国,春秋時代の歴史を国別にまとめた書である。

 ここの、晋の部に、「賞レ善罰レ姦、国之憲法也」とある。角川新字源(1983年版)「憲」の項参照。ここでの意味は、おきて、きまり、といったもの。

 次に、日本での用例。聖徳太子の「十七条憲法」。これは、「当時の朝廷に仕える諸氏族の人々に対して,守るべき態度・行為の規範を示した官人服務規定ともいうべきもの」平凡社世界大百科事典「十七条憲法」関晃執筆、である。

 ここまでは、constitutionとは直接関連なし。ただ、その来歴に関しては注意を払っておくべきだろう。liberty、freedom、の訳語である、「自由」だって、列島の歴史では「自由狼藉」と使われて、ネガティブな語感を引きずったままなのである。特に、国権論者たちにとっての「憲法」感は、官人服務規定ならぬ国民服務規定ぐらいのものかも知れないのだ。

 ここから近代の資料でアクセス可能なものから、constitutionに当たりそうな言葉を拾っていきたい。なお、頁数のみで出典が特に記載無いものは、岩波書店『日本近代思想大系』「9.憲法構想」(1989年)よりの引用。

1)加藤弘之の「隣草」(1861年)。p.10

○上下分権の政体と云ふは、君王万民の上に在りて之を統御すと雖も、確乎たる元律を設け、又公会と云へる者を置て王権を削るを云ふ。

 ここでは、広義のconstitutionなら「政体」、狭義ならば、「元律」だろう。なお、同頁に、「元律」として、

根本律法。今日の憲法のこと。加藤はのち明治元年刊の「立憲政体略」でも、一般の法律を「憲法」、今日の憲法を「大憲法」「国憲」と呼んでいるが、最高法規としての「憲法」の呼称が一般に定着するのは明治十年代半ば以降のこと

と頭註がされている。大事な点なので、記憶にとどめておいて欲しい。

2)坂本竜馬の「船中八策」。p.32

船中八策(1867)
 一、天下ノ政権ヲ朝廷ニ奉還セシメ、政令宜シク朝廷ヨリ出ヅベキ事。
 一、上下議政局ヲ設ケ、議員ヲ置キテ万機ヲ参賛セシメ、万機宜シク公議ニ
   決スベキ事。
 一、有材ノ公卿諸侯及ビ天下ノ人材ヲ顧問ニ備ヘ官爵ヲ賜ヒ、宜シク従来有
   名無実ノ官ヲ除クベキ事。
 一、外国ノ交際広ク公議ヲ採リ、新ニ至当ノ規約ヲ立ツベキ事。
 一、古来ノ律令ヲ折衷シ、新ニ無窮ノ大典ヲ撰定スベキ事。
 一、海軍宜ク拡張スベキ事。
 一、御親兵ヲ置キ、帝都ヲ守衛セシムベキ事。
 一、金銀物貨宜シク外国ト平均ノ法ヲ設クベキ事。

 ここで、constitutionにあたるのは、「無窮ノ大典」であろう。

*同時に、西洋のconstitutionの概念史まで手を出したので、近代日本の調査が中途になってしまった。いずれにしても、1、2回ではおわらないので、ご覧に来て戴いている方々も少しお付き合い戴きたい。

明治「憲法」の起源(2)へ続く。

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