明治constitutionは近代主権国家であったか?(1)
明治の国制(constitution)は、果たして近代主権国家の名に値するものだったのか。このことを、軍と明治憲法によるその依法的統制=シビリアンコントロールから考えてみたい。
事は明治初期の太政官政権時代から始まる。簡単に言えば、政、軍のうち主導権は政にあった。
慶応4年1月 三職七科制 総裁→海陸軍総督、海陸軍務掛
総裁は天皇を補佐する唯一の機関。軍事を管掌。
同2月 総裁→軍防事務局
同閏4月 政体書 天皇→輔相(行政官、補佐機関)→知官事(軍務官)が軍事を掌握
明治2年7月 二官六省制 天皇→左右大臣→兵部卿
明治4年7月 太政官三院制 天皇→太政大臣(軍事権限を掌握)→兵部卿に軍隊指揮の関与権を付与。
明治5年2月 兵部省⇒陸軍省+海軍省、に分割。
明治6年5月 太政官正院の権限として軍政命令権を掲げる(事務章程)。
明治11年12年 参謀本部設置。太政大臣+陸軍卿からの独立。
明治19年三月 陸海軍共通の参謀本部設置。
ここで、憲法発布前から登場した、内閣制との関連を見てみる。
「内閣職権」1885(明治18)年12月22日
第1条 内閣総理大臣ハ各大臣ノ首班ニシテ機務ヲ奏宣シ旨ヲ承テ大政ノ方向ヲ指示シ行政各部ヲ統督ス
第2条 内閣総理大臣ハ行政各部ノ成績ヲ考ヘ其説明ヲ求メ及之ヲ検明スルコトヲ得
第3条 内閣総理大臣ハ須要ト認ムルトキハ行政各部ノ処分又ハ命令ヲ停止セシメ親裁ヲ待ツコトヲ得
第4条 内閣総理大臣ハ各科法律起草委員ヲ監督ス
第5条 凡ソ法律命令ニハ内閣総理大臣之ニ副署シ其各省主任ノ事務ニ属スルモノハ内閣総理大臣及主任大臣之ニ副署スヘシ
第6条 各省大臣ハ其主任ノ事務ニ付時ゝ状況ヲ内閣総理大臣ニ報告スヘシ但事ノ軍機ニ係リ参謀本部長ヨリ直ニ上奏スルモノト雖モ陸軍大臣ハ其事件ヲ内閣総理大臣ニ報告スヘシ
第7条 各大臣事故アルトキハ臨時命ヲ承テ他ノ大臣其事務ヲ管理スルコトアルヘシ
「内閣官制」(明治22年勅令第135号)
第1条 内閣ハ国務各大臣ヲ以テ組織ス
第2条 内閣総理大臣ハ各大臣ノ首班トシテ機務ヲ奏宣シ旨ヲ承ケテ行政各部ノ統一ヲ保持ス
第3条 内閣総理大臣ハ須要ト認ムルトキハ行政各部ノ処分又ハ命令ヲ中止セシメ勅裁ヲ待ツコトヲ得
第4条 凡ソ法律及一般ノ行政ニ係ル勅令ハ内閣総理大臣及主任大臣之ニ副署スヘシ勅令ノ各省専任ノ行政事務ニ属スル者ハ主任ノ各省大臣之ニ副署スヘシ
第5条
① 左ノ各件ハ閣議ヲ経ヘシ
1 法律案及予算決算案
2 外国条約及重要ナル国際条件
3 官制又ハ規則及法律施行ニ係ル勅令
4 諸省ノ間主管権限ノ争議
5 天皇ヨリ下付セラレ又ハ帝国議会ヨリ送致スル人民ノ請願
6 予算外ノ支出
7 勅任官及地方長官ノ任命及進退
② 其ノ他各省主任ノ事務ニ就キ高等行政ニ関係シ事体稍重キモノハ総テ閣議ヲ経ヘシ
第6条 主任大臣ハ其ノ所見ニ由リ何等ノ件ヲ問ハス内閣総理大臣ニ提出シ閣議ヲ求ムルコトヲ得
第7条 事ノ軍機軍令ニ係リ奏上スルモノハ天皇ノ旨ニ依リ之ヲ内閣ニ下付セラル々ノ件ヲ除ク外陸軍大臣海軍大臣ヨリ内閣総理大臣ニ報告スヘシ
第8条 内閣総理大臣故障アルトキハ他ノ大臣臨時命ヲ承ケ其ノ事務ヲ代理スヘシ
第9条 各省大臣故障アルトキハ他ノ大臣臨時摂任シ又ハ命ヲ承ケ其ノ事務ヲ管理スヘシ
第10条 各省大臣ノ外特旨ニ依リ国務大臣トシテ内閣員ニ列セシメラル々コトアルヘシ
とりあえず事実関係の記述をやってみた。まだ少し続くがそれは次回に。
参考文献
1)大江志乃夫『統帥権』日本評論社 1983年
2)三浦裕史『軍制講義案』信山社 1996年
3)稲田正次『明治憲法成立史』上巻 有斐閣 昭和35年(1960)
4)秦郁彦『統帥権と帝国陸海軍の時代』平凡社新書 2006年
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