「こころ」は、heart か、mind か?(2)
中国語の心 xin 。これ、なかなかわからん。中国語大辞典(角川書店1994)によっても、漠として捕まえ難い。多少、興味深い用例が、「心地 xindi 」。 こう書いてある。
「心地 xindi 」。①心根。心境。気持ち。心遣い。気心。; ‘心’は考えを生み出すところ、‘地’は万物を生育するところから‘心地’という。
角川 新字源から、「こころ」で訓んでいるものに、三種。「心」「情」「意」。
「心」。①心臓。②こころ。③人間の精神活動の根本となる、知・情・意の本体。精神。etc.
「情」。〔なりたち〕人間の生まれながらの美しい心、転じて、ありのままの意をあらわず。①こころ。心が物に感じて動くはたらき。etc.
「意」〔なりたち〕心におさえおぼえるの意を表す。憶の原字。ひいて、知・情のもとになる意識の意を表す。①こころ。②ここばせ。③おもい。考え。etc.
また、
「心学」。心の本体をきわめて修養のもとにしようとする学問。陸象山・王陽明らが唱えたもの。陸王の学。
とある。
また、Chinese-English Dictionaryなどでは、たいてい、「心 xin 」= heart, mind としているだけだ。
以上、ざっと調べたみた暫定的結果としては、日本語の「こころ」は、heart>mind、中国語の「心 xin 」は、heart<mind、という、あまり冴えないものになってしまった。
*相良亨『一語の辞典 こころ』三省堂(1995)、という絶好の本をみつけた。しかし、「こころ」の多方面、意外な面ををあっちこっちと連れまわされた挙句、「心(こころ)」とはこうである、という確言に至らない。各種文献を知るためには役立つし、面白いが、結局のところ、日本語の概念語「心(こころ)」とはなんであるか、に関してはあまり明確な像を結ぶことはできなかった。
**そういえば、G.ライル『心の概念』みすず書房(1987)、っていう超有名な本もあった。このオリジナル・タイトルは、
Gilbert Ryle, The Concept of Mind, Univ of Chicago Pr(2003)
つまり、日本語訳者たちにとっては、mind ⇔ 心(こころ)、というわけだ。
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