teaching と communicating は異なる
teaching と communicating は異なる。安倍教育改革なるものが目指すというのはあくまで前者。これには、始めから、「教える」立場の人間と、「教わる」立場の人間が前提とされている。ここに対等な人間関係の入り込む余地はない。しかし、子供たちが大人に求めているものは後者だ。なぜなら、communicatingは相互に敬意を払う人間関係にしか成立しないから。そもそも、これがなければ他者の人権など理解出来まい。
孔子も言っている。
子曰。不曰如之何。如之何者。吾末如之何也已矣。
子(し)曰(いわ)く、これをいかん、これをいかんと曰わざる者は、
われこれをいかんともする末(な)きのみ。
『論語』巻第八 衛霊公第十五(Web漢文大系)
ここに表明されている思想は、teaching としての《教育》の原理的不可能性であり、communicating としての《教育》の原理的可能性なのである。
| 固定リンク
« 治者であるがゆえに正しいわけでなく、被治者であるがゆえに正しくないわけではない(1)Being the ruler doesn't mean he is right, so being the governed doesn't mean they aren't right. | トップページ | 奇妙な果実、あるいは、ワクワク »
「日本 (Japan)」カテゴリの記事
- 有田焼のマグカップ/ Arita porcelain mug(2024.04.25)
- 佐藤竹善「ウタヂカラ CORNERSTONES4」2007年CD(2024.04.18)
- Taxman (The Beatles, 1966)(2023.11.30)
- LILIUM: ラテン語によるアニソン/ LILIUM: The anime song written in Latin (2)(2023.11.28)
「中国」カテゴリの記事
- 虹 rainbow(2024.03.09)
- 河津桜(2024.03.03)
- 二千年前の奴隷解放令/ The Emancipation Proclamation of 2,000 years ago(2023.01.29)
- 日本の若者における自尊感情/ Self-esteem among Japanese Youth(3)(2022.09.29)
- 日本の教育システムの硬直性は「儒教」文化に起因するか?(2021.05.18)
「文化史 (cultural history)」カテゴリの記事
- 20世紀におけるドイツ「概念史」とアメリカ「観念史」の思想史的比較 / A historical comparison of the German “Begriffsgeschichte” and American “History of Ideas”of the 20th century(2024.11.19)
- 金木犀と総選挙/ fragrant olive and the general election(2024.10.21)
- 虹 rainbow(2024.03.09)
- 河津桜(2024.03.03)
- 沢田マンション:日本の カサ・ミラ〔1〕/Sawada Manshon: Casa Milà, Japón〔1〕(2023.09.19)
「古代」カテゴリの記事
- 虹 rainbow(2024.03.09)
- 二千年前の奴隷解放令/ The Emancipation Proclamation of 2,000 years ago(2023.01.29)
- Women's Loyalty: Feminism in the Twelfth Century(2022.05.30)
- 女の忠誠心 十二世紀のフェミニズム(2022.05.10)
- 千年前のリケジョ(理系女子)/ A Millennial Science Girl(RIKEJO)(2022.03.14)
「書評・紹介(book review)」カテゴリの記事
- ドアを閉じる学問とドアを開く学問/ The study of closing doors and the study of opening doors(2024.10.27)
- 柳田国男「實驗の史學」昭和十年十二月、日本民俗學研究/ Yanagida Kunio, Experimental historiography, 1935(2024.10.20)
- リア・グリーンフェルド『ナショナリズム入門』2023年11月慶應義塾大学出版会/訳:小坂恵理, 解説:張 彧暋〔書評③〕(2024.09.23)
- リア・グリーンフェルド『ナショナリズム入門』2023年11月慶應義塾大学出版会/訳:小坂恵理, 解説:張 彧暋〔書評②〕(2024.09.18)
- リア・グリーンフェルド『ナショナリズム入門』2023年11月慶應義塾大学出版会/訳:小坂恵理,解説:張 彧暋〔書評①〕(2024.09.16)
「思想史(history of ideas)」カテゴリの記事
- 「資本主義」の歴史的起源/ The Historical Origins of “Capitalism”(2024.11.22)
- 「ナショナリズム」の起源/ The Origin of “Nationalism”(2024.11.21)
- 20世紀におけるドイツ「概念史」とアメリカ「観念史」の思想史的比較 / A historical comparison of the German “Begriffsgeschichte” and American “History of Ideas”of the 20th century(2024.11.19)
- 比較思想からみた「原罪」(peccatum originale/original sin)| Original Sin from the Perspective of Comparative Thought(2024.10.31)
- Michael Oakeshott's Review(1949), O.S.Wauchope, Deviation into Sense, 1948(2024.08.17)
「知識理論(theory of knowledge)」カテゴリの記事
- Words, apophatikē theologia, and “Evolution”(2024.08.26)
- 塩沢由典『複雑さの帰結』1997年、の「解題集」(2024.08.13)
- DLT( Distributed Ledger Technology ) and Kegon (華嚴 Huáyán)Thought(2024.07.19)
- Can humans communicate with objects?(2024.05.04)
- 愚かな勉強法と賢い勉強法/ Stupid, or Smart Study Methods(2024.04.22)
コメント
足踏堂さん、どうも。
組織における位階制は、権限のピラミッドであるとともに、知識に関するヒエラルヒーでもあります。組織の位階制を上昇すると視野は拡大しますが、知識の詳細度は低下します。
人間の認知限界(一定)=知識視野×知識詳細度
だからこそ、組織上位の人間は、下位の詳細を極めた「局所的知識」(塩沢由典)を常にリサーチせざるを得ないわけです。この原理をサッパリ理解できなかった典型的組織が、日本陸軍参謀本部でしょう。
投稿: renqing | 2006年12月31日 (日) 04時35分
加齢御飯さん、どうも。
他者に「教えること teaching」は原理的に不可能ですが、「知りたい」と考えるように、encourage することは、communicating を通じて可能だと考えます。教師はそこに賭けるしかないと思っています。
投稿: renqing | 2006年12月31日 (日) 04時07分
TBありがとうございました。
いや、しかし、ご無沙汰いたしております。
TeachingとCommunicating、興味深いですね。私は、仰られるところのTeachingは、見事に軍隊組織との親和性を持っていると思います。上意下達には適していますが、現場の意見をくみ上げるには不適とされる軍隊組織。それは、常に「教える」方が「正しい」という前提があるからではないでしょうか。軍隊型の会社組織と同様、ヒラメ型人間が跋扈し、悪質ないじめと、都合の悪い情報の揉み消し、組織内情報操作など、当然の結果でしょう。
あれ、書いてて、今の政府のことが思い出されてきちゃいました。防衛「省」法案と教育基本法「改正」案が同時に通ったというのは、象徴的なことだと、後世言われるのかもしれません。
投稿: 足踏堂 | 2006年12月26日 (火) 10時50分
TBをありがとうございました。文中の孔子のことばは卒論指導をやっていて、いやというほど感じたことです。自分で知ろうとしない人間になにかを教え込むことなど不可能です。「ゆとり教育」をやめれば子どもが勉強するようになるなどと考えるのがなんともおかしなことですね。
投稿: 加齢御飯 | 2006年12月26日 (火) 07時18分