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2007年4月 1日 (日)

嫁の持参金は夫のものか?〔1〕(古代ローマの場合)/ Does the wife's dowry belong to her husband? [1] (in the case of ancient Rome)

 31  Ibi dos esse debet, ubi onera matrimonii sunt.
    (パウルス・学説彙纂第2巻第4章第5法文)
 「婚姻の負担が存在するところに嫁資が存在するべきである。」

 嫁資 dos というのは聞きなれない言葉であるが婚姻のさいに、社会的な慣行にしたがって、女の側が男の側に持参する金銭その他のもののことである。婚姻にあたって妻が家長である夫または家長の夫権に服属する場合には、その女は実家における相続権を失うので、その代償として、財産をもたせてやるのが本来の意味であった。ところが、夫権に服属せず、従前のように実家の家長の家長権に服したまま婚姻に入る場合は、夫婦が家を別にしているのに、夫の側が婚姻費用を負担するという関係が生ずるので、嫁資はもとの意味を失って、その費用の分担という意味をもつようになった。これがこの格言の趣旨である。最初、嫁資は完全に夫の所有に帰した。

“ Dotis causa perpetura est. ”
(パウルス・学説彙纂第23巻第3章第1法文)
「嫁資の性質は永久的である。」

 しかし、共和政の終り頃から、離婚が日常茶飯となりはじめると、そのような取扱いは、再婚しようとする女にとってきわめて不利であったし、また夫が婚姻中に死亡した場合にも、妻が相続の上で優遇されなかったためもあって、嫁資が、婚姻解消後女やその設定者に返還されるように配慮され、その結果、嫁資は、夫の利得であるというよりも、むしろ、婚姻継続中に夫に信託されている財産にすぎないと考えられるようになった。そして、その返還を安全・円滑に行うために何種類もの巧妙な技術が何世紀にもわたって考案されている。妻の法律上の地位が劣悪であったにもかかわらず、社会的にはかならずしもそうでなかったのは、この嫁資の支えによるところが多い。

  以上すべて、柴田光蔵 『 ローマ法の基礎知識 』 有斐閣双書(1973年) 、pp.133-4、より。

嫁の持参金は夫のものか?〔2〕(近世日本の場合)/ Does the wife's dowry belong to her husband? [2] (in the case of early modern Japan) : 本に溺れたいへ続く。


*参照
磯田道史『武士の家計簿』
箪笥に封印

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