“旧型”インフルエンザに「タミフル」を使うべきではない(総括・意見編)
前編では、事実(報道)についてまとめた。この後編ではそれらを総合して、現在のところのrenqingの意見を総括する。
◎renqingの現在の見解
1)「タミフル」の薬効と副作用について。ただし、旧型インフルエンザに関するもの。
まず、正作用(薬効)について。これは、かなり効果あり、と判断してよいだろう。効くときは、「劇的」な効果をみるといってよい。「タミフル」による治療経験のある小児科医に確信的支持があるのもこれがあるからだ。
ただ問題は負効果(副作用)である。
たまたま一昨晩、民放テレビ(地上波)でも再現ドラマを作り、「タミフル」について報道していた。それにしても、異常行動で死亡したケースを、警 察に「自殺」と決め付けられては、親の心中察するに余りある。そのケースでは、厚労省の下請け機関である、独立行政法人医薬品医療機器総合機構の対応もサ イテーだった。下記参照。
これでは、厚労省自身が、強力で不屈の「敵」をわざわざ作るようなものではないか。馬っ鹿じゃなかろうか。旧厚生省を含め、この官庁には前科が累々としてあるのだが、全くその反省が生かされていない。医事評論家水野肇氏の指摘するように、薬害スモンとそっくりのケースだ。この官庁「不治の病」というべし。
「タミフル」の負効果(副作用)についてはこう考えるべきだろう。
これまで日本では、「タミフル」が年間約860万人に処方されてきた。いくら、薬品の認可申請時に、臨床試験(この場合は日本国外)のデータを集 めてあるからといって、このデータにはかなわない。つまり、たとえどれほど緻密な臨床試験をしてあっても、特に副作用については、実際に多くのタイプの患 者に使われてみて、初めて判明するものがあることは避けられない。だから、新薬については、副作用に関する当局の意図的、積極的追跡調査が不可欠なのであ る。
で、当局、この場合は結局、厚労省(と実質的には同じ)が、積極的な副作用追跡調査と結果公表を事実上サボタージュしていたことが問題の第一番目である。
それから、そもそも旧型インフルエンザに「タミフル」を使用すべきだったのかどうか、という点が問題の第二番目である。前編でも触れたように、欧 州ではハイリスク患者以外には使用しないのが医師の常識だ。日本でも、3月20日の厚労省の措置で、ようやく欧州と同レベルのガイドラインになったという べきだろう。
試みに、異常行動が「タミフル」の副作用によるものとして、その発現頻度をみてみる。年間服用者数が約860万人。昨年度の異常行動報告が約 1800人。すると、0.02%。つまり、五千人に1人。う~ん、これが多いのか少ないのか。参考までに、日本におけるインフルエンザにおける死亡数の推 移を見るため、下記のリンクへ飛んで見ていただきたい。
図録▽インフルエンザによる死亡数の推移(社会実情データ図録 Honkawa Data Tribune
2)欧州と日本との「タミフル」の使われ方の違い
その一方で、欧州では基本的に「タミフル」は使用しない。とすると、旧型インフルエンザによる死亡リスクはあまり高くないと認識されていると考えられよう。これは、一つの要因として、インフルエンザ・ワクチンの接種率の高さとも関係があるだろう。下記参照。
図録▽インフルエンザ・ワクチン接種率(先進国比較)(社会実情データ図録 Honkawa Data Tribune)
事実編で引用した記事で、スイスの医師はこう発言していた。
「高齢者など合併症が心配な患者以外は、まずは1週間ほど休養を取ることが基本だ」
基本的に、ワクチン接種がある程度普及していて、何かのときには「1週間」ほどの休養を取れる社会なら、旧型インフルエンザに「タミフル」のような“特効薬”は不要と言っても良いのだろう。
そう考えると、ある日本の若い医師が自分のサイトで指摘していることは重要だ。
「・・・本当に「休養をとれる」のならば、今までの治療でゆっくり休んでいたほうが、より安全な場合もあるのではないでしょうか。」
「病気になっても、特効薬を使われて、すぐに働かされる社会というのは、少なくとも、あんまり「豊か」ではないような気もします。」
それでも、「タミフル」を処方しますか?(いやしのつえ)
未知の副作用があるかどうかまだはっきりしないにも関わらず、「特効薬を使われて、すぐに働かされる社会」という基本構造が、この(仮にあるとすれば)薬禍の、最大の温床なのだと言える。
3)WHO(世界保健機構)の冷ややかな態度について
事実編で引用している、WHOの報道官の発言、および個人的意見を述べた新型インフルエンザ担当スタッフの言葉の端々に、何か棘(とげ)があるような気がしてならない。
これには二つの理由が考えられる。
第一に、WHOの「タミフル」の位置づけは、新型インフルエンザ対策であり、出来る限り速やかに、資金のある国から備蓄することが望ましい、とい うものだ。欧州もその線に沿っている。ところが日本では、あろう事か、特許所有国米国より多く、旧型インフルエンザ対策に費消しているのだ。 renqingが憶測するに、各国の感染症対策の担当者という事務レベルでは、暗黙の合意があるのだろう。「タミフル」は新型インフルエンザ対策で備蓄 と。だから、いくら日本に金があるからと言っても、そういう約束を反故にしていいのか、という静かな怒りが、あのような奥歯にものが挟まったような言い方 をさせているのではないか、と思うわけだ。
第二に、大量使用による「タミフル」耐性ウィルスの早期出現をできるだけ避けたい、という狙いもあろう。そして、やはりこの日本で、「タミフル」耐性ウィルスが発見されている。↓参照。
タミフル:耐性B型ウイルスが出現 人から人へ感染
「
治療薬のタミフルが効きにくいB型インフルエンザウイルスが発見され、うち一部は耐性を持つウイルスが人から人へ感染したとみられることを、東京大医科学
研究所の河岡義裕教授と「けいゆう病院」(横浜市西区)の菅谷憲夫小児科部長らが突き止めた。人から人への感染で耐性ウイルスの広がりが確認されたのは初
めて。このウイルスが広がれば、タミフルでの治療が難しくなることから、河岡教授は「詳しく監視し続ける必要がある」と強調している。4日付の米医師会雑
誌に掲載された。
耐性ウイルスはA型インフルエンザですでに見つかっている。河岡教授らは04~05年の流行シーズンに、B型インフルエンザにかかった患者422
人からウイルスを採取して調査。その結果、うち7人(1.7%)から、タミフルを服用していないのに耐性ウイルスが見つかった。患者の体内で耐性を得たの
でなく、兄弟など身近な人から感染した可能性が高いという。【山田大輔】
毎日新聞 2007年4月4日 11時07分 (最終更新時間 4月4日 13時47分)」
WHOが最も恐れているのはこの耐性ウィルスの出現だったのではないか。なにしろ、現在、人類が手にしている新型インフルエンザ・ウィルスへの対 抗手段は、この「タミフル」しかまだないのだから。ワクチンは、新型ウィルスが実際に出てきて、採取し、これまでのウィルスとその型の異同を調べた上でな いと開発できない。それからしても、WHO関係者の日本に対するむかっ腹は間違いなくあると思う。
結果的に、日本政府は、その二つとも踏みにじっているわけ。そこに、日米同盟(ラムズフェルト前国防長官)への、厚生族小泉の見苦しいサービス精神が介在している、と想像しないことはrenqingにとって、ちと難しい。
4)いったい「タミフル」は新型インフルエンザに効くのか。
これは全くわからない。ただし、「タミフル」の作用機序を考えると、対症療法の具体的方策として、有効であってもおかしくないと思う。既述の耐性ウィルスの出現は気になるが。
数年前、インドネシアで発生し、人が罹患したトリ・インフルエンザの致死率は、50%~80%。日本で現れた副作用の疑われる異常行動の発現頻度 は、先ほどのざっとした計算では、0.02%。この致死率リスクを考えれば、新型インフルエンザに冒されたとき、「タミフル」に未知の副作用があったとし ても、使わざるを得まい。
WHOでは、感染爆発(pandemic)の際には、全世界で死者は約800万人と予想している。この悪夢のような疫病に対抗するのに、人類は、発症初期にのみ効き目のある「タミフル」しか持ち合わせがない。「蟷螂の斧」というべきかもしれない。
◎結論
表題どおり、“旧型”インフルエンザに「タミフル」を使うべきではない、“新型”インフルエンザ向けに備蓄すべき、というものだ。この点、産経新聞と珍しく(^^;意見が一致している。
【主張】タミフル 改めて冷静な対応求める
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