Marx と Weber
かぐら川さんの、マックス・ヴェーバー『職業としての政治』(1919)(3) 、へのコメントに刺激されてフラッと書くことにした。内容は、この二人の知的巨人の唯物的基礎に関して。
まずは両人の生没年から。
Karl Marx (文政元年1818 - 明治16年1883)、享年65歳
Max Weber (元治元年1864 - 大正9年 1920)、享年56歳
Marx の『資本論』第1巻の初版は、 慶応3年(1867)にハンブルグで出版されている。Weber 3歳である。Weber 19歳で、 Marx は没する。その前年に Weber は、ハイデルベルグ大学で法律を学び始めているが、Marx がロンドンで客死した時、ストラスブルグで兵役中であった。
Marx は、1849年からその没するまでロンドンで亡命生活を余儀なくされるが、マンチェスターの紡績工場を経営する資本家の息子であるエンゲルスも、1850年から父親の経営を手助けするためイギリス生活を開始していた。有能なビジネスマンであったエンゲルスが父親のパートナー(つまり共同経営者)となって以降は、現在の日本の物価水準で言えば、年間1000万円ほどの資金を Marx 家に援助していたようだ(森嶋通夫のエッセイによる)。つまり、当時で言えば、十分、イングランド中産階級の生活をしていたことになろう。娘たちに、世間に恥ずかしくない程度のみなりと教育を施せたのはいうまでもない。
一方、Weber は、典型的なプロイセンの家長である父親とうまくいかず、またその父親から経済的に独立するにもなかなか大変で、精神的に苦しんでいたが、ついに1897年7月その父親と、母親のいるまえで大喧嘩してしまう。父親はその翌月憂さ晴らしに、友人と旅行に出るが、旅先で病死する。その翌年から、精神疾患(うつ病か?)に症状が出始め、休職、復職、また休職、といった繰り返しとなり、せっかく32歳の若さで得たハイデルベルグ大学(既に30歳でフライブルグ教授に就任していたので、その2年後ハイデルベルグ大学にスカウトされたわけ)の教授職も、1903年には辞めざるを得なくなるが、それでは喰えなくなるので、大学側の温情で名誉教授職というポストにしてもらうことになる。それでもかなり苦しかったようだが、その翌年あたりに、資産家だった母方の祖父の遺産を分与してもらえることになり、ようやく経済的に安定する。ここから、彼の病も回復期に入り、「プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神」を始めとする多産な一時期を迎えることになる。この後は、体調が回復すると研究を中心とした仕事を抱え込みすぎ、体調不良、転地療養、回復、またオーバーワーク、のサイクルで、比較的早い晩年を迎えることになる。renqingが以前、年譜から試算してみたら、1894年のフライブルグ大学教授就任(30歳)から、没する1920年までの26年間で、講壇に立てたのは実質5年ほどだった。その間の彼の研究活動を支えていたのは、広大な屋敷を含む相続した遺産だったことはいうまでもない。
この二人、もし、普通に大学教授職について、それを全うしていたら、と考えてみる。ま、わからないが、偉大な業績は残すことは間違いなかろうが、これほど独創的な仕事になっていたかどうか。疑問なしとしない。
| 固定リンク
「西洋 (Western countries)」カテゴリの記事
- Vom Streben nach Erwerb und Eigentum zur Orientierung an Fürsorge und Verpflichtung(2025.07.06)
- Toward a Shift from ”an Orientation to Acquisition and Property” to ”One of Care and Obligation”(2025.07.06)
- Athens and Jerusalem: The Conflict Between Hellenism and Hebraism in the West(2025.03.31)
- アテネとエルサレム:西欧におけるヘレニズムとヘブライズムの相克(2025.03.31)
- Does the Imperial Anthology of Poetry exist in Europe?(2025.02.28)
「思想史(history of ideas)」カテゴリの記事
- Bergson and Whitehead: Similarities and Differences(2025.03.05)
- ベルグソンとホワイトヘッド、その類似性と相違点(2025.03.05)
- Neo-Confucianism (Cheng-Zhu) living in Soseki/ 漱石に息づく《朱子学》(2025.02.25)
- リチャード・ローティの二つの書評/ Two book reviews by Richard Rorty(2025.02.23)
- 「資本主義」の歴史的起源/ The Historical Origins of “Capitalism”(2024.11.22)
「Weber, Max」カテゴリの記事
- Koichi Namiki: „Theodizee und das Buch Hiob“ (1999)(2025.05.06)
- Koichi Namiki, “Theodicy and the Book of Job” (1999)(2025.05.06)
- 並木浩一(Namiki Koichi)「神義論とヨブ記」1999年(2025.05.06)
- 国際社会学会が選ぶ、20世紀を代表する社会学書10選(1998年) Books of the Century XX /International Sociological Association 1998(2025.04.28)
- Die Mentalität der „Wachstumsparanoia“: „Karrierismus“(2025.04.27)
「資本主義(capitalism)」カテゴリの記事
- Die Mentalität der „Wachstumsparanoia“: „Karrierismus“(2025.04.27)
- The Mentality of "Growth Paranoia": "Careerism"(2025.04.27)
- The Beginning of the End of the Postwar Regime(2025.04.08)
- 「戦後レジーム」の終りの始まり(2025.04.08)
- 「資本主義」の歴史的起源/ The Historical Origins of “Capitalism”(2024.11.22)
コメント