長谷川三千子 『民主主義とは何なのか』文春新書(2001年)
一定の見方からのものであり、言葉遣いに少々首を傾げたくなる部分も散見される。にもかかわらず本書の前半三分の二ぐらいまで、つまりホッブズまでは、それなりに文献を押さえ議論されていて参考にはなった。
しかし、ロック以降結語までの部分は、書き飛ばした観があり、どうもいただけない。気持はわからんでもないが。少なくとも、著者が「自らの主張を自分から疑ってみよう」(本書p.217)としているようには思えなかった。
また、本書全体の論調からして、政治的にも知的にも、著者が、現代においては、所詮、己も民衆(デーモス)の一人に過ぎない、という冷めた認識を持たれ
ていないように見受けられるのは、知的(理性的?)読者をして著者の知的成熟度に一抹の不安を感じさせるに十分なものがあると思われる。
一言添えれば、古代ギリシアの民主政を見るに、デーモス不信に凝り固まった、貴族出自のプラトンやアリストテレスの評言だけを、歴史の当事者による証言のように珍重するのは、著者の史眼の浅さを露呈していて、いささか無残といわざるを得ない。
書きっぷりが少々はしたない、というのが偽らざる読後感だ。藤原正彦『国家の品格』とよい勝負である。
長谷川三千子 『民主主義とは何なのか』文春新書(2001年)
第1章 「いかがわしい言葉」―デモクラシー
第2章 「われとわれとが戦う」病い
第3章 抑制なき力の原理―国民主権
第4章 インチキとごまかしの産物―人権
結語 理性の復権
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コメント
かぐら川さん、どーも。
長谷川三千子氏は、wikipedia によれば、
「祖父は英文学者・野上豊一郎、祖母は小説家・野上弥生子、父は物理学者・野上耀三、夫は東京水産大学名誉教授・長谷川晃(筆名・長谷川西涯)。東京大学では寺田透に師事。」
だそうです。この華麗な出自からして、己を知的エリートに擬するのも自然な流れかと。しかし、そういう「生まれ」を一歩つき離す見方ができない、というところが、長谷川三千子氏の知性の脆弱さを表しているように感じます。
「長谷川正安氏」とは、懐かしいお名前。確か、代々木系の憲法学者だったと思いますが「日本の憲法」なんぞという代物
。を書いていたような気がします。
投稿: renqing | 2007年7月28日 (土) 03時16分
この本のタイトルは新聞の欄外広告でみた記憶がありますが、目次を見て唖然としました。反語的?なことばで興味をひき著者の問題関心に読者を引き込むための手だてとも思えませんし。「結語 理性の復権」だけが読むに値する(笑)かに見えますね。。。。。“書きっぷりが、少々はしたない”、さすがrenqingさんうまく言いますね。
いずれせよ書店で、手にとってみたいと思います。
〔追記〕私が無知だっただけで、長谷川先生はとても高名な方でいらっしゃるのですね。前言に失礼があったとしたらお詫びせねばなりません。
〔余談〕「長谷川先生」と書いた瞬間に、私の眼前に「長谷川正安氏」――ご存じの方はおられるでしょうか――の風貌が浮かんできました。私が学生時代に聞いた講演は漫談のようなものでしたが・・・・。
投稿: かぐら川 | 2007年7月27日 (金) 20時08分