追いかけて、「桐一葉」
碧梧桐から、「桐一葉」が気になりまして、ついつい調べちゃいました(-_-;。以下はその成果*。
関連する出典を、時代順に箇条書きしました。
1)『淮南子』(紀元前2世紀)、「巻十六 説山訓」
見一葉落
而知歳之將暮
睹瓶中之冰
而知天下之寒
以近論遠
一葉落つるを見て、
歳の将(まさ)に暮れんとするを知り、
瓶中(へいちゅう)の氷を賭(み)て
天下の寒きを知る。
近きを以て遠きを論ずるなり。
2)唐庚(とうこう、宋の人)編、『文録』より、作者不詳
山僧不解数甲子
一葉落知天下秋
山僧は甲子(つきひ)を数うる解(あた)わず
一葉落ちて天下の秋を知る
3)呉自牧(元の人)、『夢梁録(むりょうろく)』巻四(七月立秋)
梧桐一葉落
天下尽知秋
梧桐一葉落ち、
天下尽く秋を知る
4)紹巴(じょうは、安土桃山時代の連歌師、1525年 - 1602年)、『連歌至宝抄』
いづれの木も葉の落るは初秋に候。梧桐一葉知天下秋と作候間、梧桐の事なりと申慣し候
5)王象晋(明の人)、『群芳譜』(1621年)。
梧桐一叶落
天下尽知秋
梧桐一叶生
天下新春再
6)旨原(しげん、1725-78、其角の門人)
我宿の淋しさおもへ桐一葉
7)坪内逍遥、『桐一葉』(1893年)
「一葉」がなぜ「桐一葉」になってしまったのかは、推測の域を出ません。下記合山氏の書でも、私と似たようなものです。
ただ、かわうそ亭さんにご教示戴いたように、「桐一葉」が季語として成立したのが16世紀末だとすると、ちょうどそのころ、朝鮮経由の宋本や朝鮮 におけるリプリント本が秀吉の朝鮮出兵を機に、大量に掠奪され日本国内に戦利品として持ち帰られている可能性がありますから、その中に文献2)や3)も当 然あったことでしょう。そして、この頃から徳川初期にかけて、中国では「梧桐一葉(ごどういちよう)」、日本では「桐一葉(きりひとは)」として分かれて いったものと考えられます。
最後に、合山究氏が下記の書で興味深いことを指摘していますので、それを引用して結語としましょう。
「中国では「一葉落ちて天下の秋を知る」や「梧桐一葉落つ」などが、物事の将来や趨勢を予知・予見することのたとえとしてもちいられることが多いの にたいして、わが国では、「桐一葉」はもとより、「一葉落ちて天下の秋を知る」でさえ、どちらかといえば、没落衰亡の予兆をあらわすたとえとしてもちいら れがちなのは、やはり日中両国の国民性の違いを示すものであろうか。」下記書、p.41
*主な情報源は以下。
1. 合山究『故事成語』講談社現代新書(1991年)、pp.38-41
2. かわうそ亭さんのご教示
3. 平凡社世界大百科事典(1998)
〔注記〕以下もご参照を乞う。
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