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2007年8月22日 (水)

田沼政権の功罪

 日本近世史上、毀誉褒貶の激しい田沼意次。彼の功罪を備忘録風にメモしておこう。

■功1
彼の選択した、一連の重商主義的な経済政策、通貨政策は、政策パッケージとしてかなり整合性が取れていた。この合理性は、他の政権時の改革政策にみられないもの。

■功2
彼の政権のもとで、一定の思想・信条の自由が可能となり、特に、蘭学が盛んになった。これは、享保の改革を受けてのものだが、日本の初期近代において決定的に重要。

■罪
いくら個々の政策に合理性があり、政策パッケージにも整合性が取れていても、それを打ち出すに「時」を得なければ、その政策の有する目的を達成できない。当時、気候変動が「小氷河期」に突入していた点は、かなり不運だった。だが、そもそもその政策パッケージが、商工業、貿易志向が強すぎ、農業政策にその明晰な頭脳が投入されなかったことは否めない。

■総合評価
優れた現実洞察力、先見性を有していたが、政策そのものは直後の寛政の改革で真っ向から否定されたこともあり、後世への影響は大きくない。勘定方 (経済を中心とする実務官僚群)にはその衣鉢を継ぐ者たちは残ることになるが。それより、思想・学問の改革開放により、蘭学が一気に興隆したことが大き い。それは、近世日本における、China oriented mind を相対化するのに決定的な作用をもった。

そして、これは田沼の預かり知らぬことだが、思想史的には次の松平定信の本格的朱子学化とともに日本近代のその後の展開を規定する元となった。

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