大政委任論から近世国家神学への遡行
あまり以前のように記事が書けないでいる。他方、書評を試みたいものは結構ある。
1)前田愛、幻景の明治、岩波現代文庫、2006年
2)小島毅、近代日本の陽明学、講談社選書メチエ369、2006年
3)小島毅、朱子学と陽明学
、放送大学教育振興会、2004年
4)吉田公平、日本における陽明学、ぺりかん社、1999年
(ただし、後半1/3未読状態)
5)上安祥子、近世における大政委任論の形成過程、鈴木正幸編『王と公』、1998年
、所収
6)源了円、一語の辞典 義理、三省堂、1996年
7)鬼頭宏、文明としての江戸システム、日本の歴史19 2010年(講談社学術文庫)
8)佐藤常雄+大石慎三郎、貧農史観を見直す、講談社現代新書、1995年
9)石井紫郎、近世の国制における「武家」と「武士」、岩波・日本思想大系27、1974年
、所収
10)前田勉、兵学と朱子学・蘭学・国学、平凡社選書225、2006年
11)末木文美士、日本宗教史、岩波新書、2006年
12)子安宣邦、本居宣長とは誰か、平凡社新書、2005年
特に、11)は(そして、ある程度は10)も)、これまでの己の日本思想史像を揺るがすものだった。というのも、徳川氏の支配から、明治 constitutionへの変化を国制史的に考察する糸口として、大政委任論を手がかりにする腹積もりでいたのだが、この書を読み、そんな片々とし小さな窓からでは、この「近代」日本を生み出した国制の大変化を読み解くことはできない、と悟ったからだ。
ことは、国家という世俗的存在を、いかにして現世を超えたところから弁証するか、という国家神学の問題に帰着する。さきの国制の大変化は、徳川 氏、引いては、武士の国家における、己独自の国家神学の必要性への不感症と便宜としての禁裏によるその穴埋め、という800年間の帰結なのだ。
そして今、徳川期における、国家神学の興亡という「神々の争い」に、いかなる座標軸で整理整頓をつけるかに数少ない自己の資源を投入中のため、少々身動き取れない状態になっている。当分、間歇的にしか記事を書けないだろう、という言い訳をしておくことにする。
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コメント
これまた、とても興味深いレスをいただきまして感謝です。
それで、追加のコメントですが、いまの私の関心領域と重なるので、早速、『日本宗教史』末木文美士を手に入れて、ざっとみているところです。通読したわけではないので、雑ぱくな感想ですが、キリスト教の位置づけによって日本宗教史の特質が理解されるというのは共感しました。それで、近代の例に内村鑑三の「不敬事件」と「ふたつのJ」が少しでてくるのですが、ぼちぼち、読んでいる内村の姿からは、毅然とキリスト教の信仰を貫いたとはいえない内村像が私にはあります。すなわち、ふたつのJの間を、かなりの矛盾をかかえてゆれうごく(これは、亀井俊介も指摘しています)。ただ、私は、その内村の「ゆれ」に日本の近代と西欧、そしてキリスト教徒とのかかわりのヒントが隠れているように思えてなりません。
投稿: 白崎 | 2007年9月22日 (土) 22時27分
ご無沙汰です。いろいろ興味深いご指摘で刺激になります。徳川政権は、秩序の永遠化のために朱子学の改竄を試みたということではないでしょうか。と、いっても、これは、いま読んでいる、松浦玲の『明治維新私論』の受け売りですが。彼は、儒教の孝を中心とした教えを、忠がそれをうわまわるようにしてしまったのが、近世武士だというのです。
政治的理想が上位のものを、ギブアンドテイクの関係のものの「永遠化」のために、トリックとして利用するーーーということです。この思想は、現代にまで及ぶーーと松浦はいっていますが、私も強くそう思います。----ということで、横合いからのコメントみたいになりますした。
投稿: 白崎 | 2007年9月19日 (水) 17時23分