忠 > 孝
我が国に輸入せられた支那思想は、主として儒教と老荘思想とであつた。儒教は実践的な道として優れた内容をもち、頻る価値ある教である。而して孝を以て教の根本としてゐるが、それは支那に於て家族を中心として道が立てられてゐるからである。この孝は実行的な特色をもつてゐるが、我が国の如く忠孝一本の国家的道徳として完成せられてゐない。家族的道徳を以て国家的道徳の基礎とし、忠臣は孝子の門より出づるともいつてゐるが、支那には易姓革命・禅譲放伐が行はれてゐるから、その忠孝は歴史的・具体的な永遠の国家の道徳とはなり得ない。(下線、引用者)
明治constitutionの権力亡者どもの末裔も、よーく自覚していた、という傍証です。
孝に対する忠の優越は、徳川初期から顕著であり、儒者の文書にも現れています。これは結局、関曠野の指摘するような「野蛮としてのイエ社会」、つまり、諸イエの力学的包摂関係として社会を構成してきた日本の、論理的必然だったのでしょう。
魯迅が、中国人は砂だ、と嘆いたのも、究極の選択を迫られた中国人のファイナル・アンサーが、国家よりも家族、である故だと思われます。それは、よくある人間の感情として、自然なものではないか、と私も思うのです。己の親や子が逃亡中の殺人犯だとして、それをかばったり、かくまったりするのはむしろ当然だと。子どもが病気なのに、忙しくて会社を休めないとか、気がねなく早引きできない、ということを、どこかおかしいと思えない社会は、狂っています。
| 固定リンク
「日本 (Japan)」カテゴリの記事
- 有田焼のマグカップ/ Arita porcelain mug(2024.04.25)
- 佐藤竹善「ウタヂカラ CORNERSTONES4」2007年CD(2024.04.18)
- Taxman (The Beatles, 1966)(2023.11.30)
- LILIUM: ラテン語によるアニソン/ LILIUM: The anime song written in Latin (2)(2023.11.28)
「Tokugawa Japan (徳川史)」カテゴリの記事
- 「産業革命」の起源(2)/ The origins of the ‘Industrial Revolution’(2)(2024.11.10)
- 徂徠における規範と自我 対談 尾藤正英×日野龍夫(1974年11月8日)/Norms and Ego in the Thought of Ogyu Sorai [荻生徂徠](2023.08.30)
- 暑き日を海にいれたり最上川(芭蕉、1689年)(2023.08.02)
- Giuseppe Arcimboldo vs. Utagawa Kuniyoshi(歌川国芳)(2023.05.24)
- 徳川日本のニュートニアン/ a Newtonian in Tokugawa Japan(2023.05.18)
「中国」カテゴリの記事
- 虹 rainbow(2024.03.09)
- 河津桜(2024.03.03)
- 二千年前の奴隷解放令/ The Emancipation Proclamation of 2,000 years ago(2023.01.29)
- 日本の若者における自尊感情/ Self-esteem among Japanese Youth(3)(2022.09.29)
- 日本の教育システムの硬直性は「儒教」文化に起因するか?(2021.05.18)
「近現代(modernity)」カテゴリの記事
- Universal Declaration of Human Rights (1948)/世界人権宣言(2024.11.29)
- 「産業革命」の起源(1)/ The origins of the ‘Industrial Revolution’(1)(2024.11.08)
- 対米英蘭蒋戦争終末促進に関する腹案(昭和十六年十一月十五日/大本営政府連絡会議決定)/Japan's Plan to Promote the End of the War against the U.S., Britain, the Netherlands, and Chiang Kai-shek 〔November 15, 1941〕(2024.06.02)
- 自由と尊厳を持つのは、よく笑い、よく泣く者のことである(1)/ To have freedom and dignity is to be one who laughs often and cries often (1)(2023.06.05)
- 「ノスタルジア」の起源(2023.05.08)
「思想史(history of ideas)」カテゴリの記事
- 「資本主義」の歴史的起源/ The Historical Origins of “Capitalism”(2024.11.22)
- 「ナショナリズム」の起源/ The Origin of “Nationalism”(2024.11.21)
- 20世紀におけるドイツ「概念史」とアメリカ「観念史」の思想史的比較 / A historical comparison of the German “Begriffsgeschichte” and American “History of Ideas”of the 20th century(2024.11.19)
- 比較思想からみた「原罪」(peccatum originale/original sin)| Original Sin from the Perspective of Comparative Thought(2024.10.31)
- Michael Oakeshott's Review(1949), O.S.Wauchope, Deviation into Sense, 1948(2024.08.17)
コメント