近世初期における人的資源としての牢人(浪人)問題
藤原惺窩(1561 - 1619)、林羅山(1583 - 1657)、山崎闇斎(1618 - 1682)。さて、この徳川思想史初期のビッグネームたちの共通点は何か。
1)いずれも牢人(惺窩は没落貴族)の子弟であること。
2)いずれも人生の活路を求めて禅寺へ出され、そこで朱子学と出会い、思想的な開眼をしていったこと。
実は、慶安のすぐ後に生まれ、元禄・享保を生きた近松門左衛門(1653 - 1724)でさえ、牢人の子である。こうしてみると、少なくとも徳川前期の知的・文化的興隆は、牢人(の子弟)という、人的資源に負うところ大だと思われる。
戦国期から織豊時代にかけて、軍事的分野に投入・拘束されていた様々な資源(人、もの、知識、テクノロジー)は、徳川の平和とともに、一気に軍事部門からリリースされ、他の民生部門に移動し(雇用され)、徳川期前半の高度経済成長を支えた。その象徴が牢人だ。
では、近世初期、牢人はいったい何人いたのか。実はそれがあまりよく分からない。国史大辞典、平凡社世界大百科事典などによると、徳川初期の過激な大名改易、減封、などで、40から50万人いたというのだが、憶測するに、どうも戦前の同一文献のデータに基づいているらしい。
歴史人口学の知見によれば、徳川初期(1600年ころ)の人口は1500万人である*。とすると、仮に先の牢人人口40~50万人という数字を利用するなら(これがクロスセクション・データではなく、何年かでの延べ人口だしても、それに目をつぶり)、その比率は約2.7%である。それだけの武士失業者(武装失業者)がいて、国制史に影響がないわけがない。
というわけで、私の日本近世国制史研究において、一つの重要な検討課題なのだが、信頼できる数量データをどうしたら入手できるものか、いま思案中である。
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