武士と変動相場制
「士族の商法」という言葉がある。たいていは揶揄として使われる。しかし、これは本当なのだろうか。
徳川期、武士の禄は、米で支給された。その一方で、武士を取り囲む経済生活は、実質的に貨幣経済である。したがって、武士も支給された米を換金しなければならない。しかし、現代の米価と異なり、当時の米価は相場品である。その上、幣制が、金遣い、銀遣い、銭使いと複雑で、取引のオーダーによって、支払い貨幣は異なっていたのだ、金⇔銀⇔銭、にもそれぞれ相場がたち、日々変っていた。
つまり、米を身分給として受け取った武士たちは、日々、変動相場制のなかで生きていたことになる。下手をすればかなりの損害が出るのである。そんななかで生きて いて、経済感覚が研ぎ澄まされることはあっても、鈍磨することはあるまい。特に、中下級レベルの武士たちなら、なおさらだ。
上士と呼ばれた上級身分の武士たちは、手ずから相場とにらめっこすることはなかろう。その下僚たちがやっていただろう。中下級の武士たちは、自分でやらざるを得ない。ここからも、幕末・明治初期に活躍する武士たちに中下級身分層の武士たちが多かったことが推論される。また、明治になって、庶民に銀行員のなり手がなく、大抵は武士出身者で占められていたということも頷ける。
*参照
磯田道史『武士の家計簿』新潮新書(2003年)、pp.97-98
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コメント
米自体が貨幣の役割をしていたのじゃないでしょうか。
かりに武家(江戸の人口比で1割弱いた)に対して米じゃなく金銀貨幣で払えるだけの金銀貨幣が産出、使用できる条件があったのだろうか?<変動相場制>かもしれないが、米が貨幣と考えているのだから、どうすることもできない、とおもいますが。米で給料をもらう武士が相場、と睨めっこ、して何ができるのでしょうか?
>幕末・明治初期に活躍する武士たちに中下級身分層の武士たちが多かったことが推論される
下級武士が騒いだ。。のも海外からの強圧が原因でしょう。外圧がなければ、倒幕の必要などさらさら無かった。
>明治になって、庶民に銀行員のなり手がなく、大抵は武士出身者で占められていた
俸禄を失った武士は教員や警察、官吏になったようです。政府の斡旋も盛ん(やらなきゃ飢え死にする)だったらしいが、教育もソコソコはあった(農民などに比べれば。その分、武力としては落ち目だった)のだとおもいます。
投稿: 古井戸 | 2008年2月26日 (火) 09時35分