日本初期近代(徳川期)における「勤勉革命 Industrious Revolution 」(2)
■社会的紀律化 (Sozialdisziplinierung)とはなにか
社会的紀律化とは、近代ヨーロッパの成立過程を「紀律 (disciplina)」」の深化と拡大という観点から描き出した概念である。類似の概念としてはマックス・ヴェーバーの「合理化」やノルベルト・エリアスの「文明化」があるが、これらは社会経済的諸関係の長期変動のプロセスを外在的・社会学的に記述したものであった。
これに対して、社会的紀律化の概念的特徴は、客観的要素にとどまらず同時代人の意思や行動といった主観的要素までも含めた形で、政治・経済・社会・文化のあらゆる局面で進行した秩序形成と自己抑制のプロセスを内在的・歴史的にとらえようとする点にある。その意味において、社会的紀律化の概念は、精神史・国制史・社会史を綜合し、国家権力から中間的諸権力をこえて民衆の心性までも射程におさめた包括的な分析枠組といえる。
勝田有恒/森征一/山内進編著『概説西洋法制史』ミネルヴァ書房(2004年)、p.226
■法人化現象とはなにか
それは単に言葉の問題ではなかったであろう。「御家中」と「藩」は違う。「誰々家来誰々」と「何々藩誰々」とは違う。「誰々様の下より出奔」するのと 「脱藩」は違う。その背後には、江戸時代の間に武士たちが、いわば、「主君に仕える武者」から、「藩に勤める役人」へと変身したという事実、その組織の在 り方も、いわば個人的忠誠関係の束から、一種の「株」となった「家」々の連合体へと変質したという事実が、あった。その新しい状況に対応して、新しい語が必要となり、たまたま(例えば「鎮」ではなく)「藩」が採用されていったのであろう。
渡辺浩『東アジアの王権と思想』東京大学出版会(1997年)、p.9
つまり、日本の初期近代(early modern)である、徳川期における社会的紀律化は、百姓身分においては「勤勉化」」として、支配身分である武士においては「法人化」として現われたのではないか、というのが私の見通しである。例えば、徳川期を通じて、明確に社会的紀律化として権力機構が打ち出した政策は、寛政異学の禁であろう。これを 機会として、徳川社会の「朱子学化」が庶民レベルまで昂進したことはほぼ間違いあるまい。寺子屋や藩校といった教育機関が爆発的に増えたのもこの頃だ。
ただし、この二つの方向、「勤勉化」と「法人化」がいかなる相互関係ないし、歴史的干渉作用を持ったのか、はまだよくわからない。ご意見などある方がいらしたら、ご示唆いただければ望外の幸せである。
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