あのぉー、まちがってる(みたいな)んですけど・・(4・結語)
T_NAKAさん、他の皆さん、どうも。再説です。
■対角線論法におけるカントールの意図、戦略
カントールの論証の意図は、
「ある集合とそのべき集合は、異なる濃度をもっている」
または、
「ある集合とそのべき集合は、一対一対応しない」
とうことです。
そのうえで、「ある集合とそのべき集合は、一対一対応する」と仮定して、矛盾を引っ張り出す、という戦略です。
そして、一対一対応原則の言い換えが、先のイ)とロ)に他なりません。
■なぜ、この表がまずい、あるいは合理的でないか
すると、本書p.75で掲げてある表は、1行ごとに、各部分集合に対して、「ある自然数が入っているか、否か」をチェックする手続きと考えられます。
そこで、T_NAKAさんの、
「ですから、同じ行に同名の部分集合が出てきても、それは「同じ部分集合を二度数えない」ということに抵触しない」
というご指摘を、改めて検討すると、どうも正しいと思われます。条件イ)に抵触する、という私の前言は撤回します。
ただし、すると、第2行・第A1列に、なぜA2が出現するのか、それなら、第2行において、一体どこにA1が出てくるのか。また、第3行・第A1列や第A2列に、なぜA3が出現するのか、それなら、第3行において、一体どこにA1やA2が出てくるのか。あとで出現するのか。なぜ、ある数の帰属手続きの確認を二度も三度もやるのか、不可解であり、表として不合理ではないかと思われるわけです。
つまり、間違いではないからといって、これらをその表に無意味においてしまうと、少なくとも、カントールの証明戦略からして、納得させたい読み手を混乱させ、不可解にさせてしまう結果となります。百害あって一利なし。特に、周りにサポートしてくれる人物がいないような独習者にとり、教育的効果は負でしょう。「私がうまく理解できないのは、私の頭が悪いからだ」ぐらいに思わせてしまいます。著者が世界的数学者なので尚更です。
とりわけ、カントールの高名な(巧妙な?)対角線論法のダイナミックな論証の説明において、数学の持つ醍醐味を減殺させる体の不合理であり、編集上のミスと言ってよいと思われます。
したがって、私の結論は、この表の、変てこな箇所の30年間にもわたる放置は間違いではないが有害だったし、それを指摘、訂正させてなかったプロの数学者たちも、無責任の謗(そし)りは免れまい、というものです。ま、対角線論法およびこの表についての私の理解にまちがいがなければ、の話ではあります。
■参照 出版社からの手紙
あのぉー、まちがってる(みたいな)んですけど・・(5・完結)
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