社会契約モデルとしての「一揆」/ The "Ikki" as a Social Contract Model
社会科学においては、その理論的ツールを、もっぱら西欧の知的伝統に負う。歴史的に育まれてきたさまざまな知的資源から、西欧人たちが、そのまま流用したり、再定義、再構成したりしてこの分野の議論を豊かにしてきた。「社会契約」などという概念はまさにそうだろう。
日本の中世史家の勝俣鎮夫、久留島典子
、近世史家の尾藤正英
などによれば、戦国大名から徳川まで、百姓には百姓の、武士たちには武士たちの、平和(つまり、自力救済の禁止/ Prohibition of self-help)を目指す団体が自生的に形成されていた。それが「一揆」である。
結局、戦国時代という名の、自然状態に止めを刺した、豊臣や徳川のリヴァイアサン(Leviathan)も単にその優越する武力でそれを達成できたわけではなく、列島を覆った「一揆」という社会契約に乗ることでそれが可能となったという訳である。
久留島が指摘するように、近世武家社会の一特徴である、「主君押込の構造」(笠谷和比古)や、惣村自治の伝統もここから導き出せるのは、見やすい道理だろう。
18世紀末から19世紀前半の、開国から幕末にかけて列島を沸騰させた右往左往は、この伝来の社会契約モデルである「一揆」から、いかにして西欧主権国家群に対応可能な国家モデルを生み出せるか、という列島史における歴史的実験だったとも言える。
結局、それは、明治コンスティテューションという、西欧型主権国家モデルでもなければ、在来型社会契約モデル「一揆」でもない、鵺のような代物を生み出し、あげく、制御に失敗し、1945年で一旦、それはこの地上から葬り去られた。
さて、それでは現在の占領期コンスティテューションは、完全に西欧型主権国家モデルに衣替えできたのであろうか。それを確認するためにも、日本人の手で、在来型社会契約モデルとして、「一揆」を再構成、再定義することに、知的冒険の価値はあるように思う。
※(20180626)下記、弊ブログ記事参照
現実としての「一揆」と思想としての「社会契約」
■参照
※弊ブログ記事 Anstalt とVerein
※外部リンク
哲学者、翻訳家・中山元の書評ブログ : 『西欧中世の社会と教会-教会史から中世を読む-』リチャ-ド・ウィリアム・サザン著(八坂書房)
| 固定リンク
「思想史(history of ideas)」カテゴリの記事
- Vergleichstabelle Poincaré / Bergson / Peirce(2025.10.30)
- Comparative Table: Poincaré / Bergson / Peirce(2025.10.30)
- ポアンカレ/ベルグソン/パースの比較表(2025.10.30)
- Pierre Legendre vs. Harold J.Berman [English version](2025.10.20)
- Pierre Legendre contre Harold J. Berman [Version française](2025.10.20)
「社会契約論 (social contract)」カテゴリの記事
- 民主制の統治能力(2)/ Ability to govern in democracy (2)(2020.11.11)
- 民主制の統治能力(1)/ Ability to govern in democracy(1)(2020.11.10)
- 自動車は、ガソリンのパワーの60%を大気中へ捨てている (2019年6月)(2019.06.25)
- 神社、demos(凡夫たち)kratia(支配)のためのagora(広場)(2019.05.25)
- 現実としての「一揆」と思想としての「社会契約」(2015.10.27)
「国制史(Verfassungsgeschichte)」カテゴリの記事
- Frauen in den antiken und mittelalterlichen Zivilisationen und die kulturelle Besonderheit Japans(2025.11.17)
- Les femmes dans les civilisations anciennes et médiévales et la singularité culturelle du Japon(2025.11.16)
- Women in Ancient and Medieval Civilizations and the Cultural Uniqueness of Japan(2025.11.15)
- 古代・中世世界における「女性」の社会的地位と日本文化の特異性(2025.11.14)
- Pierre Legendre vs. Harold J.Berman [English version](2025.10.20)
「Bito, Masahide (尾藤正英)」カテゴリの記事
- 徂徠における規範と自我 対談 尾藤正英×日野龍夫(1974年11月8日)/Norms and Ego in the Thought of Ogyu Sorai [荻生徂徠](2023.08.30)
- 尾藤正英著『日本の国家主義 「国体」思想の形成』2020年岩波書店(オンデマンド版pbk)(2022.11.28)
- Collapse of Social Order and Salvation of the Individual(2022.02.15)
- Instruction manual for our blog(2021.05.02)
- 幕末維新テロリズムの祖型としての徂徠学(1)/ Ogyu Sorai as the prototype of the Meiji Restoration terrorism(2020.10.02)


コメント