CARL SCHMITT, Der Nomos der Erde (1950) 、より
新しい問題の核心は、無ラウム的に一般的な国際法の代わりに、広域(Grosraum)ごとに相違する多くの国際法が現れたという点であった。それでもって、即座に、大地の新しいラウム秩序という大問題が、西方、すなわちアメリカから告知されたのであった。しかし、このことは、一八九〇年頃のこの発展段階の初頭においては、困難な問題であるとはまったく見えなかった。上述のように、人々は、常に、疑問の余地なく共通のヨーロッパ文明に注目していた。アフリカの土地はヨーロッパの列強にとって共通の陸地取得の対象であったという意味においてのみ、アフリカ国際法というものがあったのである。(上述一九〇頁を参照せよ)。当時においては、アジア国際法については可能性としてもまったく話題にされなかった。なるほど、十九世紀の八、九〇年代以来、アジアの国々もまた、国際法共同体の中に出現してきたが、しかし - ラテン・アメリカ諸国においては、一大陸に特有な広域的な国際法の思考が少なくとも出現し、一九一〇年には上述のアルヴァレスの「アメリカ国際法」へと至ったのに対して - アジア諸国は、一切の問題を意識することなく、外見上依然としてまったくヨーロッパ中心的な国際法の中へ滑り込んでいったということは奇妙なことである。しかし、このヨーロッパ中心的な国際法は、このことによって、無差別に普遍的な国際法へと変化したのである。 ・・・。
日本は、一八九四年にはシナとの戦争により、一九〇四年にはヨーロッパの強大国たるロシヤとの戦争での赫々たる勝利により、ヨーロッパ的な戦時法規の規則を守ったということを実証した。それによって、日本を受け入れるパーティーが行なわれた。
カール・シュミット『大地のノモス』 、新田邦夫訳、下巻pp.320-321、福村出版(1976年) (引用者注:訳書傍点は斜字体、引用者強調は下線とした)
なお、ドイツ語原文は、PDFファイルとして容易に全文を入手できる。下記
Carl Schmitt - der nomos der erde.pdf
上記引用箇所は、pp.203-204(pdf197page/311pages)。
さて、我々の関心は、19世紀後半に、シュミットのいう「アジア国際法 Asiatischen Volkerrecht」なるものが構成可能だったのか、ということである。少なくとも、日本、清国、朝鮮において、相互に修好条約(条規)を締結する中 で、東アジア国際法の構成可能性はあったのではないか、と思う。ただし、日本が西欧の「パーティー」に入ることに血眼でなかったなら、という条件が満たさ れていることが必要。そして、その知的経路は、1901年まで生きた福沢諭吉ではなく、1869年に斃れた横井小楠の道であったろう。
〔注〕上記、シュミットの記述は、下記の文献から教えられた。
仲津由希子「殺めるなかれ、盗むなかれ、貪るなかれ:大戦間期ポーランドの平和構想」(現代文明学研究)、p.518
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