漱石、第一次世界大戦、トライチケ / Soseki, World War I and Treitschke
個人の場合でも唯喧嘩に強いのは自慢にならない。徒(いたず)らに他(ひと)を傷(あや)める丈である。国と国とも同じ事(こと)で、単に勝つ見込があるからと云つて、妄(みだ)りに干戈(かんか)を動かされては近所が迷惑する丈である。文明を破壊する以外に何の効果もない。
勝つたものは勝つた後(あと)で、其損害を償ふ以上の貢献を、大きな文明に対してしなければならない筈である。少なくとも其心掛がなくてはならない筈である。自分は今の独乙にそれ丈の事(こと)を仕終せる精神と実力があるか何(ど)うかを危(あや)ぶまざるを得ないのである。するとトライチケの主張は独乙統一前には生存上有効でもあり必要でもあり合理(り)的でもあつて、今の独乙には無効で不必要で不合理なものかも知れないといふ事(こと)に帰着する。
夏目漱石 点頭録 1916年(青空文庫)より
上記の舌鋒鋭い漱石の軍国主義批判は、日本で刊行されている漱石の評論集には未収録で、韓国で発刊された漱石評論集に収められているとの由。下記、参照。
諸氏も、漱石全集が面倒なら、上記の青空文庫で、文明評論家漱石に耳を傾けるべきだろう。
※ついでに、下記も参照。
学問をして人間が上等にならぬ位なら、初めから無学でいる方がよし(漱石)
※トライチケ(Treitschke)に関してはこちらも参照。
権力起源論としての「社会契約説」に対する二つの批判(1)
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