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2009年3月11日 (水)

J. M. Keynes による、Major C. H. Douglas評

ケインズ『雇用・利子および貨幣の一般理論』岩波文庫下巻(2008年) 、pp.176-177

 

 戦後、異端の過少消費理論が雨後の筍のように現れた。中でも最も有名なのがダグラス少佐のものである。ダグラス少佐の主張の強みは、言うまでもなく、正統派が彼の破壊的批判の多くにまともな回答を与えなかったことに大きく依存している。ひるがえって、彼の下した診断の細部、とりわけ A +
B定理とやらには、眉唾としか言いようのないものもたくさんある。もしダグラス少佐が彼のB項目を、取替や更新のための当期支出に充てられない企業者の金融的準備に限定していたなら、彼はもっと真理に肉薄していたであろう。しかしその場合でも、これらの準備が、増加した消費支出ととも多方面における新たな
投資によってもまた埋め合わせられる可能性のあることは頭に入れておく必要がある。ダグラス少佐は、自分はわれわれの経済体系が抱える重要な問題を少なく
とも全く忘れたわけではない、正統派の幾人かの論敵との違いはここにある、と主張する資格をもっている。だが、マンデヴィル、マルサス、ゲゼル、それにホブソンの列に伍す資格があるかといえば、彼(ダグラス)にはとてもそれほどの資格はない。勇敢な異端軍の少佐ならぬ、おそらくは兵卒といたところである。
一方、これらの人々は、明快で首尾一貫し論理は平易なるも現実離れした仮定にもとづいて導出された謬説を奉ずることを潔しとせず、みずからの直観の命じる
まま、たとえ曖昧で不完全ではあっても、真理を究める途を選んだのである。

John Maynard Keynes, The General Theory of Employment, Interest and Money
Chapter 23. Notes on Merchantilism, the Usury Laws, Stamped Money and Theories of Under-consumption

 

Since the war there has been a spate of heretical theories of
under-consumption, of which those of Major Douglas are the most famous.
The strength of Major Douglas’s advocacy has, of course, largely
depended on orthodoxy having no valid reply to much of his destructive
criticism. On the other hand, the detail of his diagnosis, in
particular the so-called A + B theorem, includes much mere
mystification. If Major Douglas had limited his B-items to the
financial provisions made by entrepreneurs to which no current
expenditure on replacements and renewals corresponds, he would be
nearer the truth. But even in that case it is necessary to allow for
the possibility of these provisions being offset by new investment in
other directions as well as by increased expenditure on consumption.
Major Douglas is entitled to claim, as against some of his orthodox
adversaries, that he at least has not been wholly oblivious of the
outstanding problem of our economic system. Yet he has scarcely
established an equal claim to rank ― a private, perhaps, but not a
major in the brave army of heretics ― with Mandeville, Malthus, Gesell
and Hobson, who, following their intuitions, have preferred to see the
truth obscurely and imperfectly rather than to maintain error, reached
indeed with clearness and consistency and by easy logic, but on
hypotheses inappropriate to the facts.

 

ダグラス関連サイト
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ALOR - Library
The Alberta Social Credit Party

 

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コメント

こんにちは。
ダグラスの経済理論について、中村三春著 : 「モダニスト久野豊彦と新興芸術派の研究」 の中に、次のような記述がありました。
http://repo.lib.yamagata-u.ac.jp/bitstream/123456789/6552/1/KunoToyohiko.pdf
第二編 久野豊彦とダグラス経済学
「ダグラス経済学の評価」 より~

    ☆  ☆  ☆

このようにダグラスの経済学は、現代の観点から見てもかなりユニークである。
塩野谷九十九は、素朴な推論により、ダグラスのA+B定理は成り立たないことを、次のように論じている。

「ダグラスが、このような初歩的な誤りを犯していたとは考えられないのであって、購買力によってカバーされるべき生産費として彼の考えていたものは、明らかに小売の段階におけるA+Bであったとみるべきである。
いいかえれば、購買力の不足はAが 「すべてのA +すべてのB」 に及ばないからではなく、小売の段階におけるA+Bに及ばないことから生ずるものと考えられていたと解すべきである。」
「そう解釈した場合、ダグラスのいう購買力不足はどうして起こるか。」
「彼は、「Aは A+Bより小でなければならない」 と考えている。
そのことは、二つのAが同じものである場合においてのみ正しい。
ところが、単独のAがすべてのAを示し、A+B のAが小売段階のAのみを示すものとすれば、
A<A+Bとはいえない。
したがって、ダグラスのように A<A+B という単純な方式だけで事を論ずることはできないのである。」

 つまり、生産・流通の過程で、Aは複数回支払われる反面、Bはその都度償却される。
それを総計すれば、A+B理論の図式では、購買力不足は起こらないというのである。
また、先のケインズや塩野谷氏は、A+B定理などのダグラスの理論は多分に多義的・神秘的で解釈の余地が大きく、だからこそ経済学以外の部分に魅力があって、多くの人に信じられたのではないかとも言う。

 ところで、塩野谷の言うように、本当にA+B定理は成り立たないのだろうか。
これはダグラスも、批判者も同じなのだが、このA+B定理は余りにもシンプルで、ケインズ学派の有効需要の理論、すなわち需要が供給を決定し、雇用を規定するとする説や、マルクス主義の剰余価値論や資本増殖の理論、すなわち労働者は賃金以上の生産を行い、それを資本家は資本へ繰り入れるとする見方などが全く考慮に入れられていない。

ダグラスの等価式、塩野谷氏の図を見れば分かるように、必要経費と売却収入、生産額と消費額は全く同じとされるが、これでは、「儲け」 という概念がどこにもない。
そこで、仮に剰余価値の要素を付け足すと、生産者は原材料費と賃金以上の商品を生産し、それは消費者が賃金収入で購買できる額を超えている。

しかし現実にはこれが消費されない限り、剰余価値は生じず、資本の増殖は起こらない。
従って、売れ残りが出ない場合の構造が、この図とは別に存在することになる。
それは需要と供給との関係や、市場の問題、特に市場の拡大の問題などであろう。
また一般に、購買力不足の場合、人はどうするかというと、車や住宅のことを考えれば、クレジットやローンに頼るのである。
クレジットそのものが、現在は資本による融資であるが、この部分を生産者銀行が扱うというのがダグラスの説なわけである。
    ☆  ☆  ☆

投稿: kyunkyun | 2010年7月 3日 (土) 12時03分

こんにちは。
丁寧に教えて頂き、ありがとうございます。
自分自身の理解度は、おそらく大学教養レベルには程遠い水準ですが、
出来るだけ頑張って、理解に努めたい思います。
引き続き、よろしくお願いします。

投稿: kyunkyun | 2010年6月29日 (火) 20時18分

kyunkyunさん、どうも。

>この中で、投稿者のあっしらさんは、「A+B定理」 は正しいと言っているのでしょうか? それとも間違いと言っているのでしょうか?

間違い、と言っておられるようです。

ただ、あっしら氏が書かれていることにも、混乱がみられ、いったい何が言いたいのか、取り上げている、数値例も含め、いまひとつ理解できません。残念ながら。

私はごく素朴な、大学教養レベルで学ぶマクロ経済学(ケインズの議論を下敷きにしたもの)は、妥当だと思っています。

したがって、ケインズがダグラスのA+B理論を批判する文脈は妥当であり、A+B理論は不正確だと思います。

簡単な数字例で考えてみます。

今、仮に、世の中に、生存水準ぎりぎりの(つまり、貯蓄できない)賃金労働者と、企業を所有し、その企業が生み出す利潤をすべて報酬として取得する資本家経営者がいるとします。例えて言えば、日本の全国民を、労働者と資本家のカテゴリーに分けるわけです。

ひとつの企業レベルで見る売上=賃金+原材料費+減価償却費+支払利子+利潤(式1)

ここで原材料費と言っても、それは他企業に支払うもので、その企業にも、労働者と資本家がいるはずです。するとその企業でも、(式1)が成立しているはず。また、支払利子と言っても、、資本家は銀行から事業資金を借りているはずです。銀行にはまた、銀行で働いている労働者と資本家とがいるはず。

つまり、日本全企業の売上は、最終的に、すべて、労働者の賃金、資本家の利潤と、減価償却費を加えたものになります

そして数値例を以下のように考えます。

平成21年の日本全体の実現した売上例 

 賃金80兆円 + 利潤10兆円 + 減価償却費 10兆円 = 国民総支出100兆円


すると、平成22年も同じ経済規模を維持するためには、資本家が10兆円を懐に溜め込まず、かつ減価償却費に相当する何らかの支出がなければなりません。

もし、労働者の賃金部分のみ支出されるだけならば、

平成22年度

 賃金80兆円(平成21年度分) = 国民総支出 80兆円

                 = 賃金64兆円+利潤8兆円+減価償却費8兆円

もし、平成21年度が完全雇用されていたならば、平成22年度は、20%経済規模が縮小するわけですから、その分、失業者が出る勘定となります。

すなわち、利潤+減価償却費、相当の支出が存在するのか、ということが焦点です。

ここで、ケインズなら、国債の発行による政府支出で、このデフレ・ギャップを埋めよ、というでしょう。

ダグラスなら、そもそも、一国の労働者人口(6千万人)がすべて働かなくとも、基礎消費物資の生産は間に合うのだから、2千万人くらいに働いてもらって、その上で、国民全員に、政府通貨で、国民配当をくばればよい、とするでしょう。

ここまでで、何か、疑問点があれば、書き込んでください。

投稿: renqing | 2010年6月29日 (火) 06時39分

こんにちは。
ダグラスの社会信用論については、約一年程前に、紹介して下さった関曠野さんの講演録を読んで知りました。
ただ数字、数学、経済はとても不得意な分野なので、何度か繰り返し読んではいるのですが、あまり理解出来ていません。。。
ベーシックインカム・実現を探る会の方に、
「例えば 『小学生にも分かる社会信用論』 のような感じで、要点を箇条書きにして、簡素にまとめて解説して下さると、とてもありがたいです。」 というリクエストもしているのですが、まだ叶っていません・・・。

ベーシック・インカムの実現には、財源をどうするのか? という課題があると思うのですが、
「現代は産業のオートメーション化が極限にまで進行した時代であり、たとえ経済危機がなくても現代人の大半は潜在的に失業者なのだといえる。」
と、関曠野さんも仰っているように、本当に今の時代がこのような状況になっているのであれば・・・ 何もわざわざ高率の所得税や消費税などによって、改めてBIのための財源を作り出す必要などないのではないだろうか?
財源はもう、見えない形で、どこかに隠されているだけではないのだろうか?
そのように考えた時、社会信用論という思想は、とても理に適っているように思えました。
http://messages.yahoo.co.jp/bbs?.mm=GN&action=m&board=1000003&tid=a5ya1bca57a5ca5afa1a6a5a4a5sa5aba5e0a4ka4da4a4a4f&sid=1000003&mid=313

それで、ベーシックインカムの実現には社会信用論の考え方を基にした方法が一番良いのではないだろうか・・・ と、今は思っています。
社会信用論について調べている内に、先に紹介した阿修羅掲示板の書き込みを知りました。
最後に紹介したリンクの内容についてですが、
* 投稿者 - あっしら
「A+B定理」について  【「A+B逆定理」 の提起】
http://www.asyura2.com/0311/idletalk6/msg/313.html

この中で、投稿者のあっしらさんは、「A+B定理」 は正しいと言っているのでしょうか? それとも間違いと言っているのでしょうか?

投稿: kyunkyun | 2010年6月24日 (木) 20時20分

kyunkyunさん ご質問ありがとうございます。

さしあたり、下記のサイトをご覧いただけますか。

「ダグラスのA+B理論」
ベーシックインカム・実現を探る会:講演録 - 関曠野さん講演録「生きるための経済」全文より
http://bijp.net/transcript/article/27#chap011

それでも分かりにくいようなら、またご質問いただけますでしょうか。私なりの解説を試みます。

投稿: renqing | 2010年6月24日 (木) 03時50分

はじめまして。
ある掲示板に、ダグラスのA+B定理についての書き込みがされていました。 (2003年)
ただ、難しくてよく分かりません。。。
どのような意味のことが書かれているのでしょうか?

* 投稿者 - きゃべ爺
http://www.asyura2.com/0311/idletalk6/msg/299.html

* 投稿者 - あっしら
「A+B定理」 には目を疑ってしまった
http://www.asyura2.com/0311/idletalk6/msg/310.html

* 投稿者 - きゃべ爺
Re: 「A+B定理」 には目を疑ってしまった
http://www.asyura2.com/0311/idletalk6/msg/312.html

* 投稿者 - あっしら
「A+B定理」について  【「A+B逆定理」 の提起】
http://www.asyura2.com/0311/idletalk6/msg/313.html

投稿: kyunkyun | 2010年6月21日 (月) 12時47分

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