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2010年2月22日 (月)

坂野潤治+大野健一『明治維新 1858-1881』講談社現代新書(2010年)

 本書は三つのパーツに分かれます。第1部 明治維新の柔構造、第2部 改革諸藩を比較する、第3部 江戸社会――飛躍への準備、の三部構成です。

 

 第1部は、坂野氏の最近の持論(←『日本憲政史』『未完の明治維新』
など)を書き直したもので、坂野氏のよい読者なら、用語などに変更はありますが、それほど目新しいものはありません。本記事最後の詳細目次を見ればある程度内容も推測できるでしょう。

 第2部が、本書の白眉といえます。ここは抜群に面白い。特に、土佐の後藤象二郎、薩摩の伊地知正治の位置づけについては、大いに教えられました。
とりわけ、伊地知が軍部から議会に籍を移してしまったことは重要な点で、月曜会事件とともに、その後の陸軍において山県をモデルとする軍政家タイプばかり
が幅をきかせ、伊地知タイプの怜悧な軍事テクノクラートが軍部で力を持てない伝統ができてしまったことが、その後の軍部の政治的肥大化を招来することにつ
ながったように思えます。

 

 第3部は、概説的でそれほど面白くない。また、徳川政権の経済政策に関して、「幕府の産業政策の後進性」とまとめていますが、これは少々いただけない。私の別記事で書きましたが、平川新『開国への道』(小学館日本の歴史第十二巻2008)
第四章「世論政治としての江戸時代」の灯油市場に関するケース・スタディを踏まえたら、そんなことは軽々に言えないでしょう。少し中身が薄い気がします。

 

 私にとり、広範囲に支持を受けていた幕末議会論(本書でいう封建議会論)が何故挫折したのか、どうしても腑に落ちなかったのですが、第2部の分析で土佐グループが二派に分かれたことに起因する、との指摘で一応納得できたことが最大の収穫でした。もし、土佐グループが二極化せずに、幕末議会論でまとまっていけば、日本の近代史はかなり変わったものになったろうと、残念でなりません。

 

第2部を読むだけでも、740円を払う価値あり。ということで、必読。

 

坂野潤治+大野健一『明治維新 1858-1881』講談社現代新書(2010年)

目次
まえがき(大野健一)
第1部 明治維新の柔構造
1明治維新というモデル
2柔構造の多重性
3明治維新の指導者たち
4政策と政局のダイナミズム
 4-1封建商社と封建議会(1858-68)
 4-2変革の凍結(1871-73)
 4-3殖産興業と革命の継続(1873-75)
 4-4崩壊の危機を救った封建議会(1875)
 4-5殖産興業路線の勝利と挫折(1876-80)
 4-6憲法派と軍部の復権(1880-81)
 4-7変革の終焉(1881以降)
5変革をもたらした条件
第2部 改革諸藩を比較する
1越前藩の柔構造
2土佐藩の柔構造
3長州藩の柔構造
4西南戦争と柔構造
5薩摩藩改革派の多様性と団結
6薩摩武士の同志的結合
7重構造の近現代
第3部 江戸社会――飛躍への準備
1日本社会の累積的発展
2近代化の前提条件
3幕末期の政治競争とナショナリズム
あとがき(坂野潤治)

 

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コメント

jchz様
こちらこそ宜しく。

投稿: renqing | 2010年2月23日 (火) 00時23分

同じ本の書評にコメントとTBありがとうございました。「第2部を読むだけでも、740円を払う価値あり」に私も全く同意です。今後ともどうぞよろしく。

投稿: jchz | 2010年2月22日 (月) 19時47分

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