川北稔『イギリス近代史講義』講談社現代新書(2010年)〔その5〕
■富の定義
そろそろこの書評も終わりにしようと思っている。その一方で、言いたいことや書きたいことがいろいろあるような気がして、頭の中のモヤモヤを整理できずにズルズルと結語を書けずにいる。
ヨーロッパ近世初頭まで、富とは世界に既に存在しており、その保有者を移動するだけだ、と思われていた。したがって、スペインやポルトガルはローマ教会の是認を受けながら、領土そのものや、金や銀を求め、そういった宝物のある他国(非キリスト教国)を攻め、侵略し、略奪した。しかし、それはヨーロッパ内部の法習慣を単に外部に援用しただけに過ぎない。このことについては、下記の名著に詳らかである。
初期近代以降のイギリスを筆頭とする西欧植民地帝国は、植民地においては、露骨な収奪ではなく、基本的には安定的な原料調達のための商取引という形式を最大限優先した。彼等がめざしたものは、現代の用語でいえば、GDPの拡大(=経済成長)なのである。
イベリア半島の植民地大国が没落し、西欧諸国がそれとの入れ替わりで大国化したのも、目指すべきものとしての「富」観念の変更という現象が預かって大きいだろう。ではどういう歴史的プロセスでもってそれが起きたのか。
■政治算術(Political Arithmetic)と成長志向
著者の川北氏が本書においてこの件について読み解く手がかりとしたのが、政治算術(Political Arithmetic)である。しかし、川北氏の叙述においては、How(いかにして)については多少辿れるのだが、Why(なぜ)が今ひとつ理解できなかった。
そこでネット上をうろつくと、本書のこの部分の叙述の台本になった、川北氏の論文がPDFファイルとしてDL可能であることがわかった。下記。
ただし、それを読んでも、政治算術家たちが「富」の増加を、領土の拡大ではなく、人口の増加、高所得者の国家規模の増加、で計ろうとした心性史的背景はわからなかった。ま、著者自身もこれからの課題だといっているわけで、仕方ないかもしれないが、ヒントらしきものも見当たらないのは困る。無論、宗教改革がそれに関わっていそうなことはすぐに推測されるが、それがどう関わっているのかがいまひとつわからん。
おそらく、1つのヒントになるのは、スティーヴン・トゥールミンの17世紀解釈だろう。(下記および弊ブログの「Stephen Toulmin」カテゴリを参照)
この件については、もう少し検討を要する。また、他の疑問点に関しては、別記事に続くことにする。
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