村上淳一『仮想の近代 西洋的理性とポストモダン』東京大学出版会1992
■伝統法史学とポスト・モダンの絶妙なハーモニー
著者は、『近代法の形成』 を初めとした多くの名著をものされているドイツ法史の泰斗。東大西洋法史学のエースで四番みたいな人。ところがNiklas Luhmannの訳書を出したあたり(1980年前後)から、ポスト・モダン的なものへの志向が明確になり、伝統的な東大独逸法史学のディシプリンを若干逸脱しだす。おそらく周囲は「ありゃりゃ」と見ていたのだろうが、本人意に介せず、「ベルリンの壁崩壊」後の1992年に本書を出す。
この本は、村上氏の重厚な法史学の見識と若々しいポスト・モダン的な学への志向が最もうまく調和した、素晴らしく知的刺戟に富んだポレミークな論文集。今読み直しても新しい発見がある、読んで楽しい(?)学術書だ。
私は、この村上氏の書によって、先年物故した科学哲学者・思想史家Stephen Toulminを知ったし、Kantの読み方とか、Simmelの再評価とかを教えてもらった。結構恩義に感じている。
東大系の方らしく、本文と同じくらい細かい註があって、これがドイツ語圏の学術情報にいろいろ導いてくれる。ドイツ語が読めない当方としてはとても助かるわけだ。
知的好奇心の旺盛な方、19世紀ドイツ思想史などに関心がある方に必読だと思う。
〔以上、amazonレビュー投稿分〕
村上淳一『仮想の近代 西洋的理性とポストモダン』東京大学出版会1992
Ⅰプロローグ:「居場所はない、どこにも」
Ⅱ近代化と合理主義・反合理主義
1 分裂
2 緊張
3 誤解
Ⅲ争いと社会発展
1 非社交的社交性
2 争いの社会学
3 システム理論と争い
4 争いとコミュニケーション
Ⅳ歴史と偶然
1 歴史概念の変遷
2 カントにおける自我と理性
3 確信と懐疑
Ⅴ社会主義体制の崩壊と現代思想
1 体制の危機
2 普遍主義の動揺
Ⅵヨーロッパの近代とポストモダン
1 「合理主義的近代」の歴史的条件
2 「二重理性」と弁神論
3 多元主義の倫理学
あとがき
索引
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