「サッちゃん」は正しい(1)
阪田寛夫作詞、大中恩作曲の童謡、「サッちゃん」。この従兄弟どうしのコンビによる名曲にはなかなか興味深い言葉がある。
サッちゃんはね
サチコって いうんだほんとはね
だけど ちっちゃいから じぶんのこと
サッちゃんって よぶんだよ
おかしいな サッちゃん
「サッちゃん」は、家族から、そして友だちから「サッちゃん」と呼ばれているのだろう。お母さんがお父さんを「お父さん」と呼ぶから、「サッちゃん」はお父さんを「お父さん」と呼ぶ。兄弟姉妹がお母さんを「お母さん」と呼ぶから「サッちゃん」はお母さんを「お母さん」と呼ぶ。友だちの「かっちゃん」は、皆が「かっちゃん」と呼ぶから、自分もそう呼んで構わないし、それでうまくいっている。
それなら、自分以外の皆が、自分を「サッちゃん」と呼ぶなら、自分を指して「サッちゃん」と指示することは不合理とは言えないはずだ。
にも関わらず、「サッちゃん」と呼ぶのはなぜ《おかしい》のか。たとえば、成人男性の「かとうこうすけ」氏という人物がいて、彼が自分は焼き魚が大好物だと表現したいとき、「こうすけは焼き魚が大好きです。」と発話したら、いささか気持ち悪い。《コイツ、カマトトか?》と思ってしまうだろう。つまり一人前のヒトは、自分を指し示すとき、その名で指示せず、《わたくし》とか《僕》、《おれ》、《 I 》《我》といった、一人称の代名詞で指示しないとおかしいと見なされる《規則》があることになる。
ではその《規則》の理論的根拠はなんだろうか。
とりあえず、発話者と、発話者が発話中でreferしている人物を混同しないため、ということはあるかも知れない。ただ、大の大人の「こうすけは焼き魚が大好きです。」という発話を聞いたときの《気持ち悪さ》にはもう少し異なった理由、根拠もあるような気がする。
ということで、この話題は次回へ。
これからしばらく私事で身辺多忙となるので、更新は間遠くなります。悪しからず。
サッちゃん
作詞 阪田寛夫
作曲 大中恩
サッちゃんはね
サチコって いうんだほんとはね
だけど ちっちゃいから じぶんのこと
サッちゃんって よぶんだよ
おかしいな サッちゃん
サッちゃんはね
バナナがだいすき ほんとだよ
だけどちっちゃいから バナナを
はんぶんしか たべられないの
かわいそうね サッちゃん
サッちゃんがね
とおくへいっちゃうって ほんとかな
だけど ちっちゃいから ぼくのこと
わすれて しまうだろ
さびしいな サッちゃん
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