失業の恐怖とベーシック・インカム
かつて、思想史家の関曠野は、「である」ことと「する」ことの中間に、「演ずる」がある、と語ったことがある。一方、日本語に「役に立つ」という表現がある。簡単にいえば、社会的分業の一部を担っている、全体のうちの一部として機能しているという意味だろう。
さて、ベーシック・インカムが制度として整備されれば、例えば失業による家計的危機に対処することは可能だろう。一方、失業者の、社会的分業(division of labor)の一部を担っていない、役に立っていない、という喪失感は、金銭では埋め合わせが難しい。
他者に貢献したい、役立ちたい、そしてその貢献によって他者に結果として承認されたい。つまり、他者に当てにされたい。この欲望は人間誰しもある。すると、身分制とそれにリンクした「職」で構成されていた前近代を清算した資本主義の下で暮らす人々においては、それは自分の「役」を自分で見つけなければならないことを意味する。にも関わらず、己の思惑とは別に、その時々の有効需要の変動によって雇用されたり失業したりもする。
「役に立つ」ことがそのまま有職であることと直接リンクしない社会。そんな新しい社会についての構想力が、いま人類に問われている。なぜなら、全ての人間が「役」を求めて働けばGDPは増え、社会全体は「成長」するかもしれないが、それは結局、地球の環境負荷レベルを押し上げ、人類自身の首を絞めかねないからだ。
| 固定リンク
「資本主義(capitalism)」カテゴリの記事
- 「産業革命」の起源(1)/ The origins of the ‘Industrial Revolution’(1)(2024.11.08)
- リア・グリーンフェルド『ナショナリズム入門』2023年11月慶應義塾大学出版会/訳:小坂恵理,解説:張 彧暋〔書評①〕(2024.09.16)
- Seki Hirono, Unearthing the Forgotten History of Ideas, 1985(2024.07.14)
- 関 曠野「忘れられた思想史の発掘」1985年11月(2024.07.13)
- Glorious Revolution : Emergence of the Anglo-Dutch complex(2023.05.13)
「環境問題 (environment)」カテゴリの記事
- 「産業革命」の起源(2)/ The origins of the ‘Industrial Revolution’(2)(2024.11.10)
- 「獲得と所有権」志向から「ケアと義務」志向への転換のために/For a shift from an “acquisition and property” to a “care and obligation”(2024.08.11)
- 近代工業技術の人類史へのインパクト/Impact of Modern Industrial Technology on Human History(2024.07.26)
- ぼくらはみんな生きている/ We are all alive(2023.10.29)
- 戦後日本の食料自給率なぜ低下したか?/ Why did Japan's food self-sufficiency rate decline after World War II?(2023.09.18)
コメント