ひとつの徳川国家思想史(9)
「三 朝幕関係の推移と中期の思想的動向」
■新井白石の「易姓革命」論(p.66)
①白石も南朝を正統とみなしている。
②しかし南朝は滅亡した。
③したがって、天皇を君主とする国家の歴史も終焉し、以後は「武家の代」。
④北朝は武家の都合で創設されたのであって、正しき皇統とは言えない。
■白石の将軍「国王」号事件(p.67)
①朝鮮との外交文書に、将軍は「日本国王」とサインすべき。
②将軍「国王」号問題は、多くの学者から反対の声が起こる。
③家宣一代で「日本国王」号は終わり。
④政治制度上の《天皇》に合理性を持ち込もうとしても挫折する見本。
■荻生徂徠のTheocracy(神権政治)論(p.69)
①「天祖、天を祖とし、政は祭、祭は政にして、神物と官物と別なし。神か人か。民、今に至るまでこれを疑ひ、而して、民、今に至るまでこれを信ず。ここを以て百世に王たりて未だ易らず」と天皇の政治的効用を洞察。
②日本固有の伝統の重視、統治者視点、で、徂徠は山鹿素行と同一の思想系列に属する。
③ただし、素行の「勤王」は ought to be、徂徠の《勤王》はTheocracyの有効性視点という to be からのもの。
■本居宣長の委任統治(「御任ミヨサシ」)論(p.71)
①徂徠 Theocracy を天皇サイドから《委任》原理でsophisticateする。
②天皇→将軍関係を《委任》原理から明確化し、《責任》のベクトルの向きを確定。
《委任》ベクトル 天照大神→天皇→将軍→大名 〔国家・人民統治の《委任》〕
《責任》ベクトル 天照大神←天皇←将軍←大名 〔《誰の》《誰に対する》《責任》〕
③ Theocracy を諸外国までさらに拡張=日本を中心とする新しい華夷思想の誕生
④ただし、中華の華夷思想は道徳・文化の普遍原理から、宣長は神勅が天皇におりたという特殊原理から
⑤したがって、諸民族間の関係は、中華思想では《対等》関係、宣長の華夷思想は《差別と支配》関係
次回に続く。
尾藤正英「尊王攘夷思想」、岩波講座日本歴史13、近世5(1977)所収
内容目次
一 問題の所在
ニ 尊王攘夷思想の源流
1 中国思想との関係
2 前期における二つの類型
三 朝幕関係の推移と中期の思想的動向
四 尊王論による幕府批判と幕府の対応
五 尊王攘夷思想の成立と展開
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